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2019年8月4日日曜日

ウズベキスタンは「次なるベトナム」となるか

(ウズベキスタン・サマルカンドの「Tourist Police」)

アジアで経済が急成長し、日本との関係も活発な国といえば、まずベトナム、マレーシア、インドネシアといった国を挙げる人が多いでしょう。そんな中、もう1つ、ベトナム並…とまではいきませんが、今後経済の成長や日本との交流の活発化が予想される国、「ウズベキスタン」について考察します。

ウズベキスタンとは

ウズベキスタンは中央アジアに位置する国で、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンに囲まれた内陸国です。海に出るためには2つ以上の国を通過しなければならない「二重内陸国」です(二重内陸国は世界に2カ国しか存在しない)。

最近は前田敦子さん主演の映画「旅のおわり世界のはじまり」の舞台にもなり話題を読んでいます。

「旅のおわり世界のはじまり」公式サイト

ウズベキスタンのあたりは地理的に東西を結ぶシルクロードの交易の要塞として栄えた地域で、歴史を勉強した人であれば「サマルカンド」「ティムール朝」などといったキーワードを聞いた人も多いでしょう。この地域では、歴史上、多くの国が勃興していきました。

20世紀に入りロシア革命が起こると、ロシア帝国の支配を受けていたウズベキスタンでも共産党政権が成立し、ソビエト連邦の一共和国としてウズベク・ソビエト社会主義共和国が成立します。その後、1990年代に入るとソ連崩壊に伴い独立し、現在のウズベキスタンとなりました。

独立後のウズベキスタンでは、初代大統領のカリモフ氏が長らく強権的な政権を維持してきましたが、2016年にカリモフ氏の死去に伴い新大統領のミルジョエフ氏に変わると、社会・経済の改革が進められるようになりました。

ウズベキスタンの歴史や概要については、以下の書籍を読むと理解が進みます。


人口増加

ここからが本題です。ウズベキスタンの現状を、ベトナムなど東南アジア諸国と比較しながら考察していきましょう。

まずは人口です。ウズベキスタンは中央アジア諸国の中でも最大の人口規模を有し、現在の人口は約3,200万人(2018年)。ベトナムは9,000万人以上なので多くは見えませんが、マレーシアの人口も約3,200万人と同じくらいです。

 
ウズベキスタンでは人口増加が顕著で、合計特殊出生率は2.46(2016年)。これは、日本で第一次ベビーブームのなごりが残っていた1950年代の水準に近いです。いわゆる「人口ピラミッド」は日本の高度経済成長期のようなピラミッド型になります。なお世界人口基金によると、2050年にはウズベキスタンの人口は4,000万人を突破すると見込まれています。

経済成長

ウズベキスタンのGDP(国内総生産)は433億ドル(2018年)で、世界94位。経済規模は確かにそれほど大きくありません。ウズベキスタンよりも人口が少ない隣国カザフスタンのGDPよりも少ないです。人口規模が同じマレーシアにも到底敵いません。

当然、一人あたりGDPもさほど高くはありませんが、実はちょうどベトナムの一人あたりGDPと同じくらいです。そして一人あたりGDPの推移を時系列で比較すると、ウズベキスタンとベトナムはまさに同じような値を推移してきています。

 
今後、ウズベキスタンとベトナムのどちらが成長のピッチを速めるか、このグラフは見モノと密かに注目しています。

ウズベキスタンの経済で今後注目できるのは「観光」、「工業生産」だと考えています。ウズベキスタンは日本国籍者などの入国ビザを免除するなど観光立国を目指しており、観光客は2018年1~9月期で390万人で、2017年同時期に比べ2倍に増加しました(ジェトロ短信より)。

また、工業生産については、過去記事「ウズベキスタンではなぜシボレー車が多いのかでも紹介したように国内にGM系列、ISUZUなどの自動車工場を抱えています。ベトナムでは日本企業の工場が多数進出していますが、ウズベキスタンでも、中東やアフリカ、ヨーロッパへの供給地として、自動車、繊維などの工場を展開する余地があります。

工業生産の状況については、JETROのレポートが参考になるので、ご覧ください。 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/b1866ca3b26e44f7.html

留学生の増加

次に、留学生の増加について考えます。ベトナムやネパールからの留学生が急増していることは数年前から言われていましたが、2017〜2018年頃から、ウズベキスタン出身の留学生が急増したことが関係者の間では話題になりました。

日本学生支援機構(JASSO)が公開している外国人留学生在籍者数のデータを見ると、ウズベキスタンから大学・大学院への留学生数は383人(2016年)、441人(2017年)ときて、2018年には705人と一気に増加しています。日本語学校への留学者数を合わせた総数は、1,047人(2017年)だったのが、2018年には2,132人を突破しており、日本語学校への留学者数の増加が顕著です。

ベトナム(留学生総数72,354人/2018年)と比べるとまだウズベキスタン出身留学生の割合は少ないですが、タイ(3,962人)やマレーシア(3,094人)と並ぶような日本留学の送り出し国となる可能性があります。

日本語学校への留学は、実質出稼ぎ労働の斡旋をしているような学校の問題もあり、なかなかビザが取りにくくなっていると言われているので、一時的に日本語学校への留学者数は減る可能性もあります。ただ、ウズベキスタン側は海外留学を支援する奨学金基金(El-yurt umidi)を創設するなどしており、日本への留学者数は今後も増え続けるでしょう。

まとめ(将来発生する「ウズベク人問題」に備えて)

ウズベキスタンを、ごく限られた視点ですが東南アジアとの比較で考察してみました。
今後、東南アジア諸国と同様に経済成長し、日本との関係も深まるとなればバラ色の未来があるような感じがしますが、一方で問題も発生してくるでしょう。

例えば、急増したベトナム人やネパール人の技能実習生の問題(受入企業の劣悪な労働環境や失踪)、東京福祉大学の外国人研究生「行方不明」問題などです。こういった外国人労働者、留学生の問題が起こった時に、これまでは中国、ベトナム、ネパールなどの国名が報道ではあがっていましたが、この中に「ウズベキスタン」が加わる日も近いでしょう(なお、ウズベキスタンも技能実習生の送り出し国です)。

実際に、日本に住むウズベキスタン国籍者が、不法滞在や窃盗で逮捕されるニュースもちらほらと聞くようになりました。

またこれはフィクションですが、ウズベキスタン出身の技能実習生らが主要な登場人物となるミステリーが「文芸カドカワ」連載されているようです。ミステリーなので設定上必要だったのかもしれませんが、ベトナム人でもネパール人でもなく、ウズベキスタン人というのが象徴的なような気がします。

移民国家・日本を舞台に新・直木賞作家が放つ壮大なミステリ!【新連載試し読み 真藤順丈「ビヘイビア」】 | カドブン

ウズベキスタンをよく知る人やネットワークのある人は、「かれらは親切でお互いよく助け合うから、日本でも穏やかに暮らすだろう」などとつい思ってしまいがちです。しかし、彼らだけ特別なんてことはありません。いつかどこかの地域で、「ウズベク人問題」が発生する日も来るでしょう。

そんな時に備えて、過去に学び、在日ウズベキスタン人が適切なサポートを受けられる体制ができることを願いますし、筆者もウズベキスタンに縁がある人間の一人として、できることがあれば力を尽くしたいと考えています。

2018年9月30日日曜日

”SDGs”(持続可能な開発目標)を知るためのリンク集

SDGsとは

SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、国連が2030年まで世界各国での達成を目指して掲げている目標リストのことです。

以前はミレニアル開発目標(MDGs)というものがあり、特に開発途上国が達成すべき目標として掲げられていました。MDGsは2015年までの目標であったため、その後継として作られたのがSDGsです。SDGsは、開発途上国だけでなく、先進国も含む各国が達成すべき目標として掲げられていることが大きな違いです。

SDGsは国際機関、各国政府、NGO、教育機関、企業までもが標語として据え、様々な取組を開始しています。

ここでは、SDGsをこれから知ろうとする時に参考になりそうなウェブの情報源を紹介します。

SDGsを知るためのウェブサイト

Sustainable Development Goals website

まずは本家本元、国連による公式ウェブサイト。とりあえず公式情報を見たい時はここを確認しましょう。残念ながら日本語版はありません。

Sustainable Development Goal indicators website

国連統計局によるSDGs関連のデータソースです。進捗状況を数値で見たいときにはこちらでしょう。

SDGs Index & Dashboard

学者らによる報告書を公開しているサイト。毎年発行される"SDG Index and Dashboards report"は、各地のSDGs達成状況についてのかなり詳細なレポートとなっているので、一度は見ておいた方がいいでしょう。

SDGs(持続可能な開発目標)17の目標&169ターゲット個別解説(イマココラボ)

SDGsの17目標とそれぞれの目標に関連するターゲットが日本語で解説されています。17の目標しか書かれていない情報ソースが多い中で、ターゲットまで書かれているのは便利です。

首相官邸 SDGs推進本部

SDGs推進本部は首相官邸に置かれているようです。日本政府のSDGsに関する方針や公式情報を確認したい時はこちらを見るといいでしょう。

Japan SDGs Action Platform(外務省)

日本の外務省が運営するSDGsのページ。首相官邸のページよりは外向けで見やすくなっています。総務省や環境省、JICAなどによるSDGsのページにもここの「関連リンク」から飛べます。

外務省×SDGs Twitter

外務省のSDGs専用のTwitterアカウント。主に日本国内のSDGs関連イベントなどの情報発信がされています。

まとめ

以上、SDGsについて知ることができるリソースを紹介しました。筆者自身もまだまだ勉強中なので、他にいいソースを見つけたら随時更新していきます。

2018年5月14日月曜日

ウズベキスタンではなぜシボレー車が多いのか

中央アジアの国・ウズベキスタンへ入国して驚きを感じることの1つは、「走っている自動車のブランドが全然違う」ことではないでしょうか。日本とはもちろん、カザフスタンなど国境を接する隣国とも、走行している車の印象が全然違うのです。

その理由が、シボレー車の圧倒的シェアです。あくまで体感ですが、走っている車のうち、8割以上はシボレーブランドの自動車と思われます。トヨタやホンダなんてほとんど見かけません(隣国カザフスタンはトヨタだらけなのに)。しかも白い車体ばかりです。

首都タシケントの中心部。写っている車はすべてシボレー車


なぜシボレーはウズベキスタンで人気なのでしょうか。

気になったので、少し調べてみました。

シボレーとウズベキスタンの関係

シボレーは、アメリカの自動車メーカーGM(ゼネラル・モーターズ)が有するブランドです。日本ではあまり見かけませんが、全世界で展開されているブランドです。

GMがウズベキスタンへ進出したのは1996年。GM傘下の韓国の自動車メーカーGM大宇(Daewoo・デウ 、現在の韓国GM)が、ウズベキスタンの国策自動車会社(UZ Auto)との共同出資でUz-Daewoo-Autoという自動車ブランドを設立したことがきっかけです(公式サイトによると、登記自体は1993年、実際の稼働は1996年開始)。

半国有の自動車メーカーということで、輸入車よりも有利な条件で販売されていたと想像できます。ウズベキスタンはソ連からの独立後、漸進的に社会主義経済からの移行をしていたのです。

その後、GM大宇ブランドの廃止に伴い、2008年にUz-DaewooもウズベキスタンGMへと変わりました。いまでもDaewooのロゴ入りの車を見かけますが、多くはシボレーブランドのロゴに切り替わっています。

参考:http://gmuzbekistan.uz/companies/istoriya_razvitiya
https://en.wikipedia.org/wiki/GM_Uzbekistan

シボレー・ウズベキスタンのラインナップ

世界的ブランドのシボレーとはいえ、もともとがDaewooブランドだったこともあり、ラインナップもDaewooに準じています。現在のシボレー・ウズベキスタンが扱う車種は以下の通り。

Uzbekistan GM公式サイトより


基本カラーが白のためか、ほとんどが白い車体です。ときどき緑の車体を見ると「おっ」と思います。コンパクトからSUVまで、ひととおりそろっている感じです。

中でも面白いのが、Damas(ダマス)です。これは、かつてGMと提携関係にあったスズキのエブリィを基にした車種だそうで、その後DaewooおよびウズベキスタンGMで独自の進化を遂げました。

レトロというか、愛嬌がある顔立ちで、個人的には好きです。街中でも普通の乗用車や配達車として、よく見かけます。

ウズベキスタンのダマスについてレポートしている日本語記事(カーマニアでも走ってるクルマの名前が滅多にわからない! ウズベキスタンのクルマ事情 | 日刊SPA!)によると、現地のディーラーでも人気のようです。

さらに、GMウズベキスタンはRavonという新たなブランドを2015年に立ち上げました。これは特にCIS地域のローカルブランドだそうで、ロシアやウクライナ、カザフスタンなどに展開しています(UzDaily.com: New automobile brand Ravon presented in Moscow)。

まとめ

ウズベキスタンでシボレー車が多い理由についてまとめてみました。

前述のように、ウズベキスタンGMはRavonという独自ブランドで近隣地域に展開しようとしています。GM資本は入っていますが、独自ブランドで積極的に自動車生産・販売を行っているのは、中央アジアでもウズベキスタンだけでしょう。

なお、ウズベキスタンはISUZU のトラックやバスの生産も行っています。自動車生産は非常に盛んなのです。

ウズベキスタンは生産人口も多く、工場労働者の確保も容易でしょう。2016年に大統領が変わり、近隣諸国との関係改善を進めているところです。今後、ウズベキスタンの自動車産業がこの国の発展の鍵となる可能性が、大いにあります。

ウズベキスタンの今後の成長に関する考察は、別記事「ウズベキスタンは「次なるベトナム」となるか」をご覧ください。


2018年3月28日水曜日

【2018年版】留学生が日本で携帯電話を使う一番いい方法は?

はじめに

文部科学省の方針もあり、日本へ来る留学生の数は増える一方です。筆者は現在、大学で留学生を受け入れる仕事もしていますが、その時によく問題になるのが、留学生の「携帯電話の契約」です。

なにが問題か

では、留学生が日本の携帯電話を使おうとする時に、何が問題となるのでしょうか。筆者の経験上、留学生受入の現場では、おおよそ次のようなことが発生してしまいます。
  1. 留学生が日本へ到着。携帯電話を使えるようにしたいので、とりあえず街の携帯電話ショップ(docomo、au、softbankとか)へ行く。
  2. 田舎のショップだと外国語を話せる店員がいないのでそもそも話が通じない。
  3. 幸い話が通じても、月額料金の高さと契約プランの複雑さ、違約金の高額さに衝撃を受ける。
  4. 結果、携帯電話の契約をあきらめて、自国から持ってきたスマホをWi-Fiのみで運用してなんとか過ごす。
  5. しかし大学から急ぎで何か連絡したいときに電話番号がなくて困る。 すごく困る。 本人も不便。
この流れ、留学生受入担当者にとっては、「あるある〜」といった感じではないでしょうか。

docomo、au、softbankなどの大手携帯キャリアで契約すると、スマホのデータ通信プランだと6,000円以上するのが普通です。「2年契約」がほとんどのため、半年や1年で帰国する留学生は高額な違約金を払わなければいけません。 しかも割引は本体とセットでの契約でなければ効かず、本体代は分割であっても高額・・・。 とならば、お金のない留学生は携帯電話をあきらめても不思議ではありません。

解決策

解決策としては、次の2つが考えられます。
  1. 中古ガラケー+SIM契約
  2. 自分のスマホ+「格安SIM」契約
  3. Softbankのプリペイド携帯「Simply」を契約 ← 追加(2018年版)

1. 中古ガラケー+SIM契約の方法

1つめは、日本にいる間はガラケー(注:日本でしか使えないフィーチャーフォン)を使う方法です。ガラケーは、大手のショップで新品で買うと、非常に高いです。本体代金で3万円以上します。

そこで、中古携帯電話ショップへ行って、ガラケーを購入します。 中古ショップでは、ものにもよりますが、安いものだと900円くらいからあります。

そして中古ショップで購入した端末を、docomo、au、softbankなどのショップへ持って行き、電話回線を契約します。 日本の携帯電話はSIMロックがかかっているのが普通なので、必ずその携帯電話が対応したキャリアへ持って行ってください。

データ通信を使わなければ、月700円台〜使えるプランがあります(注:解約金が必要)。 ただし通話料金は30秒で20円と高いので、なるべく自分からは電話をかけずに、かかってきた時だけ使うようにしましょう。 何回か電話をかけても、だいたい月1,000円~1,500円くらいで収まるはずです。

初期費用(端末代、契約事務手数料)で5,000円、月々1,000円×12ヶ月=12,000円、解約金10,000円とすると、1年でかかる費用は30,000円くらいだと思われます。

これくらいなら、まあまあ払えるんじゃないでしょうか。 インターネットは無料Wi-Fiで何とかするから電話だけでいい、という場合はこの方法でいいでしょう。

参考に、大手3社のガラケー料金プランのリンクを載せます。
あと、大手3社に次ぐY!mobileもガラケープランを提供しています。

補足:プリペイド携帯

日本の携帯は大抵ポストペイド(月額制)ですが、例外的にプリペイド携帯も存在します。ただし、通話料が普通のプランより割高になります。
auとsoftbankがプリペイド携帯を提供していますが、softbankの方が充実しています。

Softbankのプリペイドを使う場合、「Simply」がおすすめです。この記事の3. Softbankのプリペイド携帯「Simply」を契約するを参照してください。

2. 自分のスマホ+「格安SIM」契約

自分のスマホを持っていて、電話だけでなくデータ通信(インターネット)を使いたい、またはデータ通信だけ使いたいという場合は、格安SIMを契約することをおすすめします。

日本はフリーWi-Fiの環境が劣悪です。大都市は多少、フリーWi-Fiスポットは増えましたが、LineやWhats Appなどチャットアプリをよく使う人は、やはりデータ通信のできるSIMが必要でしょう。

格安SIMとは?

格安SIMは、大手通信会社よりもかなり安価に携帯電話やデータ通信の契約ができるサービスのことです。「SIM」とは、携帯電話の通信に必要な小さなICチップのことで、格安SIM会社の多くは、この「SIMカード」単体で販売していることが多いです。

(画像)SIMカード

格安SIMは、大手通信会社の通信インフラを借り受けて、独自のサービスや料金プランを設定してそれぞれのお客さんに提供しています。格安SIMの会社は、ほとんど店舗を持たないかあってもほんの数店舗など、コストを極力抑えています。なので大手よりも格安で通信回線を提供できるのです。

どれくらい安いのか

どれくらい安いのか、比べてみましょう。
月額料金(通話+ネット) 契約期間 解約金 データ通信量 備考
大手通信会社 約6,900 円(機種代込み) 2年 9,500円 2GB ・電話かけ放題
・本体を分割払いで購入した場合は解約時に残債の支払いが必要
格安SIM A社 約1,900円 6ヶ月 8,000円 3GB ・これに電話料金がかかる(20円/30秒)
・電話機本体を用意する必要がある
※契約手数料は除く

上の表は、電話とネットをスマートフォンで利用する場合の料金比較です。前述のように、大手通信会社の契約プランが複雑怪奇なので、あくまで目安、例と思ってください。

大手通信会社と契約する場合は、機種を同時に購入するのが一般的です。上の月額料金は、Nexus5Xを同時購入した場合の料金です。SIMだけでも契約できるにはできますが、色々な割引プランが効かなくなります。ガラケーにすれば月額料金は安いのですが、最近のガラケーは本体料金がけっこう高いんですよ。

格安SIMでSIMだけを契約した場合、機種本体は自分で用意する必要がありますが、自国でスマートフォンを持っている場合もあるので、それが日本で使える機種の場合は、わざわざ新たに買う必要はありません。買う必要があっても、最近は1万円台でそれなりに使える機種が見つかります。

どうでしょうか。比べてみると、こんなに差があるんです。

なぜ安いのか

安さにはそれなりの理由があります。一般に、格安SIMのデメリットとしては次のようなことが言われています。
  1. 物理的な店舗の数が少ないので、申し込みやトラブルの相談が不便
  2. 設定を全部自分でやらなければいけない
  3. 通信速度が遅い
  4. 通話し放題プランがない
  5. クレジットカードがないと契約できない場合が多い
1 については、東京、大阪など大きな都市には、家電量販店(ヨドバシカメラやビッグカメラなど)に格安SIMの実店舗があるので、そういう所で契約すればよいでしょう。また、ネットでも契約できます。デジタルネイティブな若い留学生や日本の学生にとっては、ネットでの契約もお手の物でしょう。

2 については、これも若い留学生にとってはさほど苦労しないでしょう。SIMを入れるときに「APN設定」というネットワークの設定をしないと使えません。説明書に書いてある通りに設定すれば大丈夫です。

3 大手通信会社に比べて、通信速度が遅い場合があります。時間帯によって著しく速度が下がる時もあると言われていますが、安いんだからあきらめなさいってことです。最近は、速度については改善されてきています。私も格安SIMを使っていますが、速度の点で不満に思うことはほとんどありません。

4 通話し放題プランが必要な留学生はいるのでしょうか?よほどアクティブなビジネスマンみたいな留学生以外は、それほど自分から電話はかけないでしょう。

5 これだけは問題になるかもしれません。クレジットカードを作って日本に来た学生はよいのですが、日本で留学生がクレジットカードを作ることは簡単ではありません。ただ、銀行振込も可能な格安SIMの会社もいくつかあるので、そういう会社を使うしかないでしょう。

格安SIMのデメリットを見てみましたが、ほとんどの留学生にとって1~4はほとんど問題にならないでしょう。とにかく、使えればよいのです。

格安SIMのサービス

有名な格安SIMのサービスは次のようなものがあります。
格安SIMの普及に伴い、だんだんと料金プランが複雑になってきました。長くなってしまうのでここで比較はしませんが、どのサービスも、データ通信は数百円〜、通話つきの場合は1,000円台後半から、プランがあります。

月々2,000~3,000円くらいは携帯電話に出費してもよいという場合は、こういった格安SIMを契約するといいでしょう。

大都市の家電量販店にはだいたい、これらのSIMカードが置いてあり、その場で契約できます。最近では、筆者の住んでいる田舎のケーズデンキやノジマなどにも、一部の格安SIM(楽天モバイルとか)が販売されています。最近は、取り扱い店舗も増えています。

とりあえず近くの電気やさんに行ってみてください。

3. Softbankのプリペイド携帯「Simply」を契約

日本の大手携帯会社は、一応プリペイド携帯のサービスも提供しています。Softbankとauが提供していますが、おすすめはSoftbankで、「simply」という携帯を契約する方法です。

Softbankの「simply」は、以下のページで紹介されています。

Simply | シンプルスタイル(プリペイド携帯電話) | 製品情報 | モバイル | ソフトバンク

Simplyは、Softbankから2017年12月に発売された、名前の通りシンプルな携帯電話です。できることは、電話、メール、SMS、簡単なインターネットブラウジングくらいです。一応、スマートフォンと同じAndroidがOSとして入っていますが、電話機能に特化されているため、新たなアプリのインストールなどはできません。

機種代金は6,458円で、4,000円分のチャージが付いてきます。契約事務手数料・機種変更手数料が3,000円かかるので、初期費用は1万円くらいと思っていいでしょう。

プリペイドなので、その都度チャージが必要です。通話料金などについてはこちら

通話料は8.58円/6秒です。30秒あたり約43円なので、よくある通話料金の2倍以上です。まあ、プリペイドなので仕方がないでしょう。

留学期間が終わったら、携帯電話本体はSIMロックを解除して、買取店やメルカリなどのフリマアプリで売ることができます。次に留学しにくる別の学生に譲ってもいいですね。

結論

以上、見てきたとおり、月々1,000円、2,000円くらいでも携帯電話が使えることを紹介しました。

日本の携帯電話契約はとにかく複雑なのですが、留学生をサポートする人たち(学校の教職員やまわりの学生)が、ガラケープランや格安SIMについて基本的な仕組みや主なサービスを覚えておいて、留学生におすすめするようにした方がいいと思います。

とにかく留学生には、電話番号くらいは持っていてほしいのです。

SIMカードはamazonから買うと、契約手数料(3,000円程度)が無料になるようです。表示価格が300円とか非常に安く見えますが、もちろん月額料金は別途かかります。また、購入したらすぐSIMが届くのではなく、パッケージの指示にしたがって、各会社のサイトから登録する必要があります。日本語がよくわかる人でも難易度高めかもしれません。

2017年8月17日木曜日

ロシアに行ったら買っておきたい:何でも中東風の香りになる魔法の粉フメリ・スネリ

いつも真面目な記事ばかりだと退屈するので、夏休みだし、今回は調味料の話をしようと思います。

ロシアのスーパーには、様々な「カンタン」調味料が並べられています。日本でいう中華調味料的な存在で、例えば「ボルシチのもと」、「プロフのもと」など、定番料理がカンタンに作れる調味料がたくさんあります。また、ガーリックやディルの粉末などもあります。

そのうちの1つ、私がロシアへ行く度に買っている調味料が、まるで魔法の粉のように色々と使えるので紹介したいと思います。

その名もХмели-Сунели(フメリ・スネリ)

フメリ・スネリとは??

パッケージはこんな感じです。



一言でいうと、「何でも中東風の料理っぽくなる粉」です。

原材料は、パッケージの裏に書いてあります。


これを日本語にすると、
コリアンダー、ディル、バジル、マジョラム、フェヌグリーク、塩、パセリ、ピンクペッパー、ミント、ローリエ
となります。見るからに香ばしい感じの香辛料で構成されているようですね。
パッケージの写真も食欲をそそります・・・。

ロシアのスーパーではだいたいどこでも売られており、1パック数十円で購入できます。

使い道は??

パッケージには、次のように説明がされています。
フメリ・スネリ:ジョージア(グルジア)とアルメニア、および他のコーカサスの民族に使われている有名な香辛料。フメリ・スネリは第一にハルチョー作りに使われる。また、肉料理やスープのユニバーサルな調味料でもある。
ハルチョーというのは、有名なジョージア料理です。赤いスープが特徴的で、ボルシチに似ていますが、ボルシチよりも濃厚で少し辛味があります。

そのジョージアをはじめとしたコーカサス地方で使われている調味料とのことですが、コーカサス料理以外にも様々な料理に使えます。

次に、個人的におすすめしたい、フメリ・スネリがよく合う料理を紹介します。

フメリ・スネリがぴったり!個人的おすすめ料理

ハンバーグ

通常のハンバーグのたねに、フメリ・スネリを入れればあら不思議!たちまち香ばしさが激増し、ケバブのような風味になります。

ハンバーグ以外にも、基本的に肉料理には何でもよく合うと思います。

マヨネーズ・タルタルソース

ドレッシングを作るときにも使えます。いつものマヨネーズやタルタルソースでは何か物足りない時、フメリ・スネリを1つまみ入れてください。

すると、あら不思議!ただのサラダやエビフライが、たちまちコーカサス料理に大変身します。

納豆

最後に、意外なんですが納豆にも使えます。

これは好みが分かれると思いますが、要するに納豆に山椒を入れるような感じと捉えてください。「納豆 山椒」で検索すると、「上品な香りになる」「大人な味になる」などおすすめする記事がたくさん出てきます。

ちょっぴり大人っぽい納豆ご飯!山椒トッピング

これと同じように、フメリ・スネリを入れても美味しくなります。納豆好きの方におすすめです。

まとめ

以上、ロシアで買える魔法の粉「フメリ・スネリ」を紹介しました。

ぜひロシアへお越しの際は近くのスーパーへ立ち寄り、この魔法の粉を手に入れて日本へ帰ってください!

(そして誰か、Cookpadにレシピを公開して、フメリ・スネリを日本に広めてください。)

2017年6月10日土曜日

開幕!カザフスタン・アスタナ万博とカザフスタンのこれから

先日、大阪が2025年の万博開催地に立候補した事がニュースとなりましたが、今年の万博がどこで開催されるか、ご存知でしょうか。今年は、カザフスタン共和国の首都・アスタナで開催されています。6月9日に開会式が行われ、会期は6月10日から9月10日まで、3ヶ月間です。

カザフスタンとは?アスタナとは?

カザフスタンはソ連崩壊後に独立し、2017年で独立25年を迎えます。ロシアの南、中国の東に位置し、国土面積は世界第9位という広さに対し、人口は約1,700万人です。天然ガス、石油、レアメタルなどの天然資源が豊富で、2000年代に急激な経済発展を遂げました。ただ、ここ数年は資源価格の下落により、経済は少し減速しています。


 カザフスタンのGDP成長率

主要民族はカザフ人で、人口のおよそ7割を占めます。カザフ人はアジア系の顔立ちで、日本人ともよく似ています。最近だと、「美しすぎる女子バレー選手」として話題になったサビーナ選手が話題になりました。カザフ人以外にはロシア人や朝鮮人など多くの民族が暮らしています。 フィギュアスケートのデニス・テン選手も朝鮮系カザフスタン人です。
サビーナ・アルティンベコワ選手(instagramより)

そのカザフスタンの首都がアスタナです。もともとカザフスタンの首都は、南部のアルマティでしたが、1998年にアスタナへ遷都されました。アルマティでの大地震や、ロシア系住民の多い北部の分離独立を警戒したためなど、遷都の理由は様々あるようです。

遷都の前は、アクモラという名前の街でした。当時の人口は25万人程度で、遷都後に急速に街が整備され、現在は80万人を超えています。なお、アスタナの新都市を設計したのは、コンペで優勝した日本の建築家・黒川紀章氏です。

新たに作られた都市のため、市内には斬新な形状をした、近未来的な建築物が多々あります。

首都・アスタナ

アスタナ万博のテーマ

アスタナ万博のテーマは「Future Energy」。自然エネルギーの活用、エネルギー利用の効率化など、未来のエネルギーのあり方を考えることが焦点となっており、100以上の国・地域と国際機関のパビリオンにはそれぞれのアピールしたいテクノロジーや取り組みが紹介されているようです。

アスタナ万博の公式ページ(英語)はこちら

会場図もありますが、日本で行われた大阪万博や、数年前に行われた上海万博、ミラノ万博ほどの規模は無いように見えると思います。

それもそのはず。ひとくちに「万博」といっても、5年に1回程度開催される大規模な万博(登録博)と、専門的なテーマに絞った万博(認定博)があり、アスタナ万博は後者の認定博の方です。認定博は、会期や会場面積などに制限があり、分野も絞られた万博です。なので、規模もテーマも限定的です。

とはいえ、国際的な大規模イベントであることには変わりなく、かなりの労力と資金が投じられ、一般の人が楽しめるようになっています。

テーマに沿ったパビリオンのほか、シルク・ドゥ・ソレイユの公演など文化イベント、その他様々なイベントが開催されるようです。

なお、日本もパビリオンを出しています。日本館の特設サイトはこちら

カザフスタン国民の熱狂は?

日本では、かつての大阪万博が国民の熱狂を呼び、その後の高度成長期へと繋がった象徴的なイベントでした。前述のように「認定博」とはいえ、新興国であるカザフスタンでの万博開催となれば、さぞかし国民が熱狂していることでしょう・・・と思いきや、案外そうでもないようです。

東京オリンピックがいまいち盛り上がらず、開催に反対する都民が一定数いるように、アスタナ万博も冷めた目で見ているカザフスタン国民もいます。

これには理由があって、アスタナ万博は、プロジェクト開始から様々なスキャンダル、トラブルに見舞われてきました。




この記事によると、アスタナ万博をめぐって次のようなスキャンダル、トラブルがあったようです。関係者の自動車事故、アスタナ万博のための国策会社幹部による組織ぐるみの汚職、建設中のパビリオン内でバーベキューして(ネットが)炎上しちゃった問題、マスコットキャラクター変更論争、さらには吹雪による建設中パビリオンの倒壊・・・。
これはさすがのカザフスタン国民もゲンナリするはずです。

まあ東京五輪も、スタジアム問題、会場問題、ロゴ問題、費用負担問題、無償ボランティア・・・とこれまでも問題山積でまだまだ問題は出てきそうなので、よその国のことは言えませんけどね。今のところ、汚職が無いだけましでしょうか。

批判はさておき、多くのカザフスタン国民は「やるなら成功してほしい」とは思っているはずです。アスタナ万博の成功を祈ります。

万博後、カザフスタンはどこへ向かうのか

カザフスタンの向かう方向性は明確です。カザフスタン政府は「Kazakhstan 2050」という、2050年に向けた国家目標を定めています。

「Kazakhstan 2050」の特設サイトまであります。
これによると、カザフスタンは「2050年までに一人当たりGDPを60,000USドルまで増やす」という目標を掲げています。2016年の日本の一人当たりGDPが38,917ドル(世界22位)なので、かなり野心的な目標と言えます。なお、2016年のカザフスタンの一人当たりGDPは7,452ドルで、世界77位となっています(参考)。

また、経済成長だけではなく、「2025年までにカザフ語をキリル文字からラテン文字へ移行する」といったアイデンティティーに関わる目標や、「水問題の解決」など環境・国際関係に関わる目標も掲げています。

カザフスタンはいま、岐路に立たされていると思われます。しばらく経済成長を支えてきた天然資源価格の上昇は終わりました。また、独立から25年、大統領としてカザフスタンの成長をけん引してきたナザルバエフ大統領ですが、高齢となり世代交代の必要に迫られるでしょう。

アスタナ万博の遺産を活用し更なる発展へと舵を切れるか、それとも負の遺産として持て余し、停滞の時代を迎えるのか。カザフスタンの今後に要注目です。

2017年5月5日金曜日

最新 世界情勢地図:100枚の地図で理解する世界のいま



本屋で思わず手にとって衝動買いしてしまった一冊。

パスカル・ボニファス (著), ユベール・ヴェドリーヌ (著), 佐藤 絵里 (翻訳)『増補改訂版 最新 世界情勢地図』ディスカヴァー・トゥエンティワン,2016

本書では、およそ100枚の世界地図とそのテキストによって、世界情勢を解説しています。

どんな地図かというと、ヨーロッパが世界中に植民地を持っていた時代、世界の環境問題、人口分布、特定の国や集団から見た世界など、様々なテーマに基づき、カラフルで分かりやすく示された地図です。Amazonの商品ページにサンプルがあるので、そちらを見るのが早いでしょう。


この本の優れたところは、これまで気に留めていなかった世界の事実に、ビジュアルによって気づかせてくれるところです。

中でも面白いのは、「◯◯から見た世界」の章。米国、ヨーロッパの主要各国、トルコ、ロシア、中国、日本などの国々、あるいは「アラブ世界」、「イスラム主義者」など特定の集団の視点から世界情勢を見る、という試みです。

例えば、米国であれば、米国がどんな国と軍事的、経済的な同盟関係にあり、どんな国を警戒しているのかが一枚の世界地図でパッと分かるようになっています。これが「ロシアから見た世界」の場合、ロシア帝国時代の領土拡大の過程の地図が入ります。このように、国によって取り上げられる話題が異なります。各国はそれぞれの課題を抱えているからです。「日本から見た世界」は、中国などと比べると大分あっさりとしています(見れば分かります)。日本ってあんまり注目されてないんですかね。

なお国として取り上げられているのは主要な国のみで、全ての国の項目はありません。アフリカ諸国の中では、南アフリカとセネガルだけが取り上げられていました。南アフリカはいいとして、なぜセネガルなんだろう。国の規模や影響力からして今ならナイジェリアやエジプトの方がふさわしいのではと思いますが。著者がフランス人ということが関係しているのかもしれません。

このような多少の偏りはあるにせよ、カラフルな地図を眺めているだけでも楽しいです。「あ、ここの国々はこんな共同体作ってたんだ!」とか、「この地域ってこんな紛争があったのか」とか気づくことができます。

気づきを得たその後は、本文のテキストを読むと理解が進みます。しかしテキストは1つの項目につき1ページ。それほど深堀できている訳ではありません。あくまでテキストは参考程度で、気になった問題はネットや他の本で調べるなりしましょう。

気づきのきっかけとしては、素晴らしく楽しい一冊だと思います。

(統計データについて気になったら、公開データを調べてみてください。参考記事:Google Public Dataを使ってグラフで遊ぼう

2017年4月25日火曜日

オルハン・パムク『僕の違和感』:現代トルコの半世紀を追体験する


「ロシア文学が好き」、「フランス文学が好き」という人は容易く見つかるが、「トルコ文学が好き」という人はあまり多くないでしょう。

今回紹介するのは、現代トルコで最も有名な作家オルハン・パムクの『僕の違和感』(2016)です。

オルハン・パムクとは

オルハン・パムクは、1952年トルコのイスタンブール生まれ。イスタンブール工科大学で建築を学び、イスタンブール大学でジャーナリズムの学位を取得。その後、コロンビア大学客員研究員としてアメリカに滞在。作家デビューは1982年の『ジェヴデット氏と息子たち』(オルハン・ケマル小説賞受賞)。その後も数々の 文学賞を受賞。2006年にはノーベル文学賞を受賞。代表作は『わたしの名は赤』、『雪』、『無垢の博物館』 など。

パムク氏の経歴は、公式サイト(英語)を見るのが一番でしょう。今の時代、小説家も自分のウェブサイトを持っているんですね。
日本語の場合は、Wikipedia、藤原書店の紹介が参考になります。
ノーベル賞受賞時に一気に知名度が高まりましたが、それから数年が経ち、日本での知名度は低くなっていると思います。ただ執筆意欲は旺盛で、2016年には最新作"Hatıraların Masumiyeti"(英題:The Red-Haired Woman)を刊行しました。

パムクは、トルコの特にイスタンブールを舞台とした作品を多く描いており、オスマン帝国時代〜現代まで、異なる時代のイスタンブールを登場させています。

2016年に和訳が刊行された『僕の違和感』も、イスタンブールを舞台にした作品です。それでは、作品について紹介します。

『僕の違和感』あらすじ

本書は上下巻の長編小説で、1950年代から2012年までのおよそ半世紀の間の、主人公メヴルト・カラタシュとその家族、親戚、友人たちの半生を描いた物語です。
主人公メヴルト・カラタシュは、12歳で故郷の村からイスタンブールへ移り住み、父と共にトルコの伝統飲料”ボザ”を売り歩くようになる。大都会の生活に馴染む中、同じく村から出てきたいとこの結婚披露宴で、美しい少女に一目惚れする。その後、熱烈な恋文を送り続け、ついには駆け落ちを実行するーー。
物語冒頭は、この駆け落ちの場面から始まります。駆け落ち自体は成功しましたが、その後とんでもない事実にメヴルトは気づきます。この駆け落ちした相手が、披露宴で一目惚れした少女ではなく、その姉だったのです。しかしメヴルトは、それに気づきながらも、一目惚れした少女の姉”ライハ”と、苦労しながらも幸せな家庭を築いていきます。

物語はその後、メヴルトの子供時代に戻り、イスタンブールへの移住、学校生活、ボザ売りの仕事、ライハとの駆け落ち・結婚、出産・・・と時代は冒頭に戻り、さらに先へと進んでいきます。その中で、メヴルトとメヴルトの周囲では様々な出来事が起こります。クルド人の親友フェルハトとの出会い、徴兵、仕事の失敗、住民同士の抗争・・・等々。こういったそれぞれの物語が、相互に絡まりながら、まるで舞台脚本のように様々な登場人物の口から語られていく形式になっています。

続いて感想を書きますが、先入観なく本作を読みたい場合はここで止めて、本を入手してください。


感想

圧巻、の一言です。主人公はごく平凡な、心優しい青年に過ぎません。何ら特別な存在ではなく、その時代に田舎から大都会へ出てきた何百万というトルコ人青年の一人です。大きな陰謀に巻き込まれるわけでもありません。確かに駆け落ちは劇的のように感じますが、許され難いものの実はよくある手段であり、主人公メヴルトが最初に恋した相手も別の男性と駆け落ちをしています。主人公以外の登場人物もそれぞれ、ごくありふれた人々です。それにも関わらず、緻密な構成と描写により、物語としても飽きることなく、トルコの半世紀を生きたそれぞれの人物の息遣いが活き活きと感じられます。

何よりも素晴らしいのは、イスタンブールという都市の描写です。これまでに幾度となくイスタンブールを描いてきた作家だけあって、イスタンブールの半世紀の劇的な変化が、主人公メヴルトの視点から丁寧に描かれています。メヴルトは伝統飲料”ボザ”を売るために、イスタンブールの路地を日々歩き続けます。路地から見える、変わり続ける都市の風景を、時に喜び、時に寂しく思うメヴルト。私はイスタンブールの空港にしか行ったことがありませんが、本書を読み、イスタンブールが何年か暮らした街のように郷愁を感じられるようになりました。

また、イスタンブールだけではなく、トルコの半世紀を追体験できるといってもよいでしょう。周知の通り、現代トルコはケマル・アタチュルクが打ち建てた世俗主義の国家です。しかし最近のトルコを見てわかる通り、イスラム教はトルコ社会と不可分のもので、世俗主義と信仰心の間で揺れ動くメヴルトや社会の様子も描かれています。世俗主義に加えて社会主義が一部の支持を集めた時代もあり、作中の人物も関わりを持ちます。クルド人というキーワードもよく出ます。そして後半では、資本主義国家として急成長したトルコ社会も描かれます。こういった変化が、歴史として解説されるのではなく、登場人物の口から語られるのです。メヴルトは何かひとつの思想の熱心な信奉者ではなく、どちらかというと冷めた視点で、社会の変化と向き合っています。

トルコとイスタンブールの半世紀の描写、というのは本作の大きな魅力であることは確かです。それと同時に、決してこれはトルコ土着の文学ではなく、それぞれの人生を歩む全ての人に向けた文学だと、思います。私は、最後の一文でそのことを感じました。

まとめ

文学作品の評価が定まるまでは時間がかかりますが、オルハン・パムク『僕の違和感』は、間違いなく名作の一つとなると思います。日本ではあまり話題にされない海外文学の中の、さらにマイナーなトルコ文学で、この作品を知る人が少ないことが残念です。宮下遼さんの日本語訳は読みやすく、登場人物の相関図も載っているので、海外文学が苦手でも抵抗なく読めると思います。

そして本書を読んでパムクに興味を持ったら、他の作品も読んでみると良いでしょう。主な作品には日本語訳があります。



また、現代トルコの歴史に興味を持ったら、最近刊行された新書『トルコ現代史』に目を通してみましょう。

パムク作品については、また取り上げたいと思います。

2017年1月13日金曜日

モルドバ知るために読んだ方がよさそうな本

画像:wikipediaより

ウクライナを知るために読んだ方がよさそうな本を書きましたが、実は同じ出張でモルドバへも行きます。モルディブではなく、モルドバです。ウクライナの隣にある、ヨーロッパの国です。モルドバに関する本も、紹介します。

概要

  • 六鹿 茂夫 (2007)『ルーマニアを知るための60章 エリア・スタディーズ』明石書店
モルドバなのに何でルーマニアなのという感じですが、モルドバ人とルーマニア人は同じ民族といってもよいのです。言語もかつては「モルドバ語」と言われていましたが、今では「ルーマニア語」に統一されています。このため、ルーマニアとモルドバの統合論もたびたび浮上します(今のEUとロシアの関係を見ると、しばらくは実現しないと思いますが)。モルドバへ行くにあたっては、ルーマニアのことも知っておいたほうがいいです。


歴史

  • 柴 宜弘 編(1998)『バルカン史 (世界各国史)』山川出版
「バルカン」といえば、バルカン半島の 旧ユーゴスラビア(スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア)あたりを思い浮かべるでしょう。この本ではルーマニア・モルドバもバルカンの歴史に組み込まれて語られています。ウクライナの記事で紹介した『ポーランド・ウクライナ・バルト史 (世界各国史) 』と同じシリーズですが構成はちょっと違っていて、各国ごと独立させた項目はほとんどなく、時代ごとに地域全体の歴史が語られています。「モルドバの歴史だけ読みたい」というニーズを満たすのは難しいですが、地域全体の歴史を俯瞰できることがメリットです。


  • 黛 秋津(2013)『三つの世界の狭間で ―西欧・ロシア・オスマンとワラキア・モルドヴァ問題―』
未入手のため、中身を読めていません。本格的な歴史書のようです。amazonの紹介文には次のように書かれています。
世界史の「見えざる焦点」、そこでは何が起こっていたのか------。西欧・正教・イスラームの三つの世界が接する境域地帯に視点を定め、近代へと移行していく複雑な「世界の一体化」プロセスを、政治外交面から、多言語の一次史料に基づいてつぶさに描き出した、世界的にも稀有な労作。
中世から近代の歴史を深く掘り下げたい場合は、この本を読むとよいでしょう。


現代

現代のモルドバのみについてのまとまった本は、日本語では残念ながらありません。
ウクライナ・ベラルーシと併せて経済を解説した書籍はあります。
  • 服部 倫卓(2011)『ウクライナ・ベラルーシ・モルドバ経済図説』 ユーラシア・ブックレット, 東洋書店
amazonだと値段が跳ね上がっていますが、これは出版元の東洋書店が倒産して絶版になってしまったからです。もともとは定価1,000円もしない、薄い本ですのでご注意。著者のウェブサイト・ブログは非常に充実しているので、むしろモルドバ経済の最新情報はそちらを見たほうがいいかもしれません。


モルドバといえば、未承認国家「 沿ドニエストル共和国(トランスニストリア)」の問題があります。これはソ連末期に、ロシア人住民が多いこの地域がモルドバからの分離独立を宣言し、その後モルドバとの間で戦争となり、停戦となったものの現在まで事実上の独立状態が続いている、という問題です。
「 沿ドニエストル共和国」については、旧ソ連地域やロシアの国際関係を扱った本に記述があります。

例えば次の書籍。
  • 廣瀬 陽子(2008)『強権と不安の超大国・ロシア~旧ソ連諸国から見た「光と影」』光文社新書
アゼルバイジャンなどコーカサス地域の話がメインなのですが、沿ドニエストル問題についても書かれています(著者が当地に「入国」した話など)。
 あとは、本ではありませんが、次のニュース記事を読んでおくとよいでしょう。

モルドバ3銀行から10億ドル消失、受け手特定できず 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

モルドバの銀行から10億ドル(日本円だと1100億円以上ですか・・・)が消失したという、とんでもないニュース。

英語ですがこちらも。2015年の反政府運動の記事です。

BBC News - Moldova anger grows over banking scandal

私が2015年12月にモルドバへ行った時も、国会前にテント張って抗議運動やってましたね。近づきませんでしたが・・・。

こちらは、2016年に行われた大統領選を受けての記事。親ロシアの大統領が勝ちました。

欧州に取られた旧ソ連国をロシアに取り戻せ!-JBpress

言語

  • ニューエクスプレス ルーマニア語
前述のように、モルドバで話されているのはルーマニア語です。かつては「モルドバ語」と言われ、文字もキリル文字が使われていましたが、今は文字もルーマニア語と全く同じです。なのでルーマニア語ができればモルドバでも通じます。同じ言語ですから。


文化

  • 羽生 修二 (監修), 三宅 理一 (2009)『モルドヴァの世界遺産とその修復―ルーマニアの中世修道院美術と建築』西村書店
専門的な書籍ですが、遺産の保護や修復、教会美術に興味があれば読んでみるとよいでしょう。


 本当はモルドバ文学の本も紹介したかったのですが、日本語で読めるちょうどいいものが見つからなかったので断念。見つけ次第、掲載します。

2017年1月11日水曜日

ウクライナを知るために読んだ方がよさそうな本


出張でウクライナへ行くことになったので、その前に読んでおく本を探しました。amazonリンクも貼ったので、すぐに買えますよ(時々、リンクがうまく表示されないようです)。

歴史(全体)

ウクライナは世界史の教科書に出てくる「キエフ・ルーシ」の時代から長い歴史を持っています。ウクライナ史の全体像をつかめる本です。
  • 伊東 孝之・中井 和夫・井内 敏夫 編(1998)『ポーランド・ウクライナ・バルト史 (世界各国史) 』山川出版社
 
ポーランド、ウクライナ、バルト(エストニア、ラトビア、リトアニア)の歴史を合わせて叙述した一冊です。なぜこの地域を一冊でまとめたかは、読み進めると分かると思います。ウクライナ以外も同時に解説されていることで、各国の史観に偏らずに歴史を考えることができます(ただし、ウクライナだけで項目を立てている箇所も多いので、そこだけ読んでも勉強になります)。

  • 黒川 祐次(2002)『物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国』中公新書
 
まだ中身を見てませんが…新書なので手頃で読みやすいと思います。読んだら簡単にレビューします。

現代(現代史・政治)

最近のウクライナ紛争に見られるように、20世紀初頭から現在まで、ウクライナは激動の時代を送っています。その現在進行形の状況とその背景を学べる本を探しました。

  • ティモシー・スナイダー(2015)『ブラッドランド : ヒトラーとスターリン大虐殺の真実(上)(下)』(布施由紀子訳)筑摩書房
 
ウクライナ、ベラルーシ、ポーランド、バルト諸国(流血地帯=ブラッドランド)で起こったドイツとソ連による虐殺を扱ったノンフィクションです。この時代の虐殺というと、ガス室送りや銃殺を連想しがちですが、本書で特に扱われる殺害方法は「餓死」です。
p.19「本書が伝えたいこと」には次の記述があります。
ドイツとソ連の殺戮場で使われた殺害方法はむしろ原始的だった。1933年から45年までのあいだに流血地帯で殺された1400万人の民間人と戦争捕虜は、食料を絶たれたためになくなっている。
ウクライナでは1930年代にひどい飢饉となり大量の餓死者が出たのですが、それがソ連による「人工的な飢饉」ではなかったかと言われています(これを「ホロドモール」という)。いくつかの政府や国際機関は、この飢饉を「ジェノサイド」または「人道に対する罪」と認定しています。


そして最近では、2014年の暴動に端を発するウクライナ紛争があります。その後のウクライナ情勢は非常に複雑で、偏向のない報道や書籍を探すのは至難のわざです。様々な書籍や報道を見比べていくのがいいと思います。

  • 現代思想 2014年7月号 特集=ロシア -帝政からソ連崩壊、そしてウクライナ危機の向こう側 – 2014/6/27
ウクライナ情勢について、国際関係のみならず、思想方面からの解説や批評が掲載されています。ただし、ウクライナ情勢の流れについてはまとめられていないので、基本的な事項を報道で再確認してから読むとよいでしょう。

言語

  • 中澤 英彦 (2009)『ニューエクスプレス ウクライナ語』白水社
ウクライナ語はスラヴ系の言語で、文法はロシア語と似ています。ただ、「ありがとう」や「愛している」といった基本的な語彙が全く違っていたり、「呼格」というロシア語にはない格があるなど、違う点はたくさんあります。ロシア語が通じるだろうという考えで行ってしまってはまずいと思います。ロシア語ができる人ほど、基本単語は覚えていきましょう。

文学

  • ゴーゴリ『鼻』
 
ロシア文学で有名な作家ゴーゴリですが、実はウクライナ出身なんですね。ただし当時はロシア帝国のいち地域でしたし、ウクライナ語ではなくロシア語で小説を書いていました。ウクライナ文学と言えるかは微妙ですが、ゴーゴリ作品に「ウクライナ性」を見出している文学研究者もいます。 ゴーゴリの作品はだいたい短く、ロシア文学特有の重々しさはあまりないので、ぜひ読みましょう。

ゴーゴリ「ディカーニカ近郷夜話」の神話論的分析. ―ゴーゴリのウクライナ性と. ウクライナをめぐるロシアのディスクール. 大野斉子.
  • アンドレイ・クルコフ(2004)『ペンギンの憂鬱』(沼野 恭子 訳)新潮社
ウクライナのロシア語作家が書いた作品です。「売れない短編小説家と憂鬱症のペンギンが同居する」という設定の、日常に不思議な、そして不条理な非日常が溶け込んだような作品です。

  • アンドレイ・クルコフ(2015)『ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日』(吉岡 ゆき訳)ホーム社

『ペンギンの憂鬱』のクルコフが、ウクライナ紛争による激動の日々を綴った作品です。


紹介したい「ウクライナを知るために読んだ方がよさそうな本」は現在のところ以上ですが、いろいろと読んでいくうちに追加、補足があれば修正していきます。

2016年12月27日火曜日

JASSO留学支援奨学金のネ申エクセル問題について

自民党の河野太郎議員が、科研費の申請書などで使われている、非常に扱いづらく煩雑なエクセルファイル、通称「ネ申エクセル(または神エクセル、以下「神エクセル」)」を廃止するよう提言したことが話題となっています。

データとして役立たない「神エクセル」問題に解決の兆し 河野太郎議員が文科省へ全廃を指示

これに似た問題が、JASSO(日本学生支援機構)留学支援奨学金関係の神エクセル問題です。すでにどなたかが問題提起されているかもしれませんが、大学で国際交流に携わっている私からも、問題提起させてください。

※ネ申(神)Excelについては三重大学の奥村先生が書かれた論文に詳しいので、そちらを参照してください:「ネ申Excel」問題

JASSO留学支援奨学金とは

JASSO(日本学生支援機構)は、経済的に支援が必要な学生を対象に奨学金を提供している独立行政法人です。JASSOの奨学金は返済が必要であり、実質は学生ローン。奨学金の返済ができずに破産する例が相次ぐなど社会問題となり、平成29年度からは返済不要の奨学金が始まります。

実はこのJASSO、通常の奨学金の他に、海外留学をする学生、また海外から日本へ受け入れる学生に対して返済不要の奨学金も支給しています。今回取り上げたいのは、大学間協定に基づく交換留学を支援する奨学金にまつわる書類についてです。

JASSOが提供する神Excelについて

まずは、日本人学生の海外留学を支援する、JASSO(日本学生支援機構)協定派遣のページをご覧ください。

http://www.jasso.go.jp/ryugaku/tantosha/study_a/short_term_h/2016.html

平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)事務手続きについて>「1.事務手続きの手引き・様式等」のところに、大学の海外派遣担当者が提出しなければいけない書類が掲載されています。

ぜひ、1つ1つ、Excelファイルをダウンロードして中身を見てみてください。

例えば、平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)登録データ
留学期間を数値で入力すると、右の 月別に別れた列に、自動で ○ が入力されていきます。高機能です。「開始月と終了月の合算日数(BF)」列が閏年で計算される不具合」があったようですが、つい先日、修正されたようです。


・・・めまいがしてきませんか?

この他にも、提出すべきExcelファイルは盛りだくさんです。非常に神々しいExcelファイルの数々です。あまりの煩雑さに、毎年、毎月、留学担当者たちは悲鳴をあげているのです。しかも様式が年度によって変わったりするのがまた大変で・・・。

職員だけでなく、学生も大変です。奨学金を受給した学生は、受給期間終了後にいくつかの書類を出す必要がありますが、そのうちの一つがこれ:平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)報告書関係様式(様式G~J) 。「様式H-3」というシートをご覧ください。Excelで、横にずーーーっと続くアンケートに回答しなければいけません。小さな正方形の中に回答を入力しないといけないのです。学生はお金をもらっている側なので、文句は言えません。粛々と回答して提出してくれます。


これを提出されて集計する方のJASSO職員の方々も、おそらく相当な苦労をされているはずです。ちなみに大学からJASSOへの提出は、一部は紙で、一部はExcelで、となっているみたいです。

その背景について推測

なぜこのような 神エクセルが誕生してしまったのか。私はJASSO内部の者ではないので、その背景は分かりませんが、推測はできます。

JASSOの留学支援奨学金は、借り手からの返済で成り立っている通常の奨学金と違い、国の予算から直接支出されているものです。なので、きちんと目的に適った利用がされているという証拠を残さねいけません。よって、誰に対して奨学金が支給され、どのような効果があって、という情報を、できるだけ細かく蓄積しておかないとならないのでしょう。

しかし、このような煩雑な書類作成ばかり求められるとなると、大学ではそれなりの数の事務スタッフが必要ですし、JASSOでもスタッフが必要となります。その人件費や、掛けられている膨大な時間をもっと有意義なことに使えるのではと思います。

解決策は?

エクセルを廃止して全てをウェブシステム化…というのが理想かもしれませんが、システム化にはデメリットがつきものです。下手なシステムを作ってしまうと、エクセルよりも作業が煩雑になってしまい、かつ莫大な制作コスト、運用コストがかかります。まずは現状の運用方式での簡素化・合理化、業務フローの見直し、一部のシステム化などから始めてもよいのではと思います。

私は末端のいち担当者なので何の力もありませんが、とにかく、ここにも「 神エクセル問題」があることを知っていただけたら幸いです。

2016年10月27日木曜日

簡単!スケジュール自動共有&リマインドサービスをZapierで作る

Zapierとは

Zapierは、いろいろなウェブサービスを連携させて処理を自動化するサービスです。例えば、Twitterにメンションが届いたらSlack(チャットアプリ)に知らせてくれる、instagramで新しい写真を投稿したらDropboxに追加する、Evernoteに新しいノートを作ったらGoogleスプレッドシート行を追加する・・・などの自動処理が、難しい知識なしで簡単に実現できます。連携できるサービスは728種類(2016年10月22日時点。筆者が指で数えた(笑))もあるので、いく通りもの組み合わせで自動処理が実現できます。

似たようなサービスにはiftttやMythingsなどがあります。もともとiftttが有名でしたが、最近はZapierが目立って台頭してきました。My thingsは日本のyahooが運営しているサービスなので、日本発サービス(はてな!など)との連携に強みがありますね。

見本

このZapierを使ってどんなものができるか、具体的に紹介します。

紹介したいのは、私が運営している「ユーラシアイベントガイド」です。これは、ロシア、中央アジアなど旧ソ連圏に関するイベント(講演会など)をFacebookやTwitter で紹介し、かつTwitterでは開催前日になるとリマインドのツイートをするという、イベント共有サービスのようなものです。こういったイベントの情報は、これまでは様々な情報ソース(メーリングリスト、ウェブサイト、個人のFacebookフィードなど)で紹介されていましたが、それを一元化してより広い層に情報を届けようと狙ったものです。
このサービスの仕組みですが、次のようになっています。
  1. Google カレンダーにイベント情報を登録する
  2. Facebook、Twitterでイベント情報が自動で投稿される
  3. イベント前日になるとTwitterでリマインドの投稿が自動でされる
図で書くとこんな感じです。


今回は、これとほぼ同じ機能を持った自動連携機能(「Zap(ザップ)」と言います)をZapierで作ってみましょう。

作ってみよう

準備するもの

  • Zapierアカウント
  • Facebookページアカウント(無ければ個人のFacebookアカウント)
  • Twitterアカウント
  • Googleアカウント

おおまかな流れ

おおまかな流れは、次の3ステップです。
  1. Triggerを設定
  2. Actionを設定
  3. ZAPをON!
それでは、開始しましょう。

Zapierにログイン

新規登録し、ログインするとこのような画面になりますが、右上の「MAKE A ZAP!」をクリックします。

Triggerを設定する

まずどのサービスでどういったイベントが発生したら処理を開始するかを設定します。ここではGoogleカレンダーを選びます。


アカウントと連携する

自分のGoogleアカウントとZapierを連携させる設定を行います。Zapierとの連携を許可してください。

Trigger イベントを決める

どんな動作があったら処理を開始するか決めます。New Event Searchの場合は、条件にあったイベントが登録された場合、Event Startはイベント開始の一定期間前になったら、New Eventは新規イベントが登録されたら、という意味です。


使用するカレンダーをきめる

Googleカレンダーでは、プライベート用、仕事用、複数のカレンダーを作ることができます。連携に使用する、公開してよいカレンダーを選びましょう。

テストする

ちゃんとGoogleカレンダーの情報が取得できるか、テストしてみましょう。この時、カレンダーになんらかのイベントが登録されていないとうまくいきません。テストができたら、Triggerの設定は終わりです。


Action を設定する

「カレンダーに予定が登録されたらTwitterでツイートする」という設定をしましょう。

アカウントと連携する

この画面でTwitterを選択し、アカウントと連携させます。


Action イベントを決める

「カレンダーに予定が登録されたらTwitterで・・・する」の・・・の部分を決めます。Twitterは、ツイートする、画像付きツイートをする、ユーザーをリストへ追加する、ユーザーを検索する、などのActionができます。ここでは「Create Tweet」を選びましょう。


テンプレートを作る

次に、Tweetでどんな投稿をするか、テンプレートの文章を作りましょう。Googleカレンダーと連携した場合、日付、場所、開始時間、件名などを自動で取得できます。それを枠内に並べ、間や冒頭、末尾に文章を加えることができます。


テストする

カレンダーから予定を取り込み、ツイートできるかテストしてみましょう。


ONにする

Dashboardへ行くと、自分の作った「Zap」一覧があるので、いま作ったZapをONにしましょう。すると、カレンダーに予定を登録すると数分後に自動的にツイートが投稿されるようになります。



他の連携

Facebookと連携する場合、新しくZapを設定し、Action の部分をFacebookに変えればいいだけです。

Twitterでイベント前日にツイートする場合、はじめのTrigger設定でEvent Startを選び、何日前(または時間単位でも設定できる)にリマインドするか設定しましょう。あとは上記のTwitterの設定と同じです。

注意

無料だと、Zapを3つまでしか実行できない、処理は150回まで、などの制限があります。大量に処理を行う場合は有料プランを契約しましょう。ちなみに「ユーラシアイベントガイド」は無料プランで使えています。

まとめ:何ができるか考えてみよう

今回は自動イベント共有サービスの作り方を紹介しましたが、いかがでしょうか?意外と簡単なのではないでしょうか?

ZapierではGoogleカレンダー、Facebook、Twitter以外にも色々なアプリと連携しているので、どんな自動処理ができ、そして日々の生活や仕事をどう効率よくできるか、考えてみましょう。何かいい「Zap」を思いついたらぜひ教えてください。

2016年10月3日月曜日

海外出張の準備でよく使うウェブサービス

いまの仕事ではよく海外出張に行きます。1年間で10カ国くらいは行っています。何度も海外出張に行って、コツのようなものも掴んできました。
そこで、今回は海外出張の準備でよく使うウェブサービスをまとめてみます。

フライト

フライトスケジュールを調べたり、予約したりするには次のサービスをよく使います。

Skyscanner


フライト検索のサービスはいくつもありますが、ここが一番使いやすいと感じています。往復、片道だけではなくMulti way(複数の経由地)を検索できるところですね。

Flyteam

フライトスケジュールを旅行会社に丸投げや予約サイトで最初に出てきたもので決める場合は必要ないです。ただ、それでは理想のスケジュールが立てられないというときに、こちらを使って時刻表から調べます。分厚い時刻表を見ながら鉄道旅行のスケジュールを考えるような楽しさもあります。

宿泊

Booking.com

海外の宿泊予約には、これさえあれば何もいらない…というほど掲載件数が充実していますし、何より直感的で使いやすいです。一度登録すれば、3クリックくらいで予約が完了するようになっています。最近は国内出張・旅行の予約にもついつい使ってしまいます。
他には次のホテル予約サイトが有名です。

為替

ドルユーロ

宅配で外貨両替をしてくれるサービスです。ウェブサイトから申し込み、指定の口座に日本円を入金すると、ドルやユーロなど外貨が郵送される、という仕組みです。郵便局や銀行で両替するよりも手数料が安いです。時間に余裕があるときは使ってもいいかもしれませんね。お金が宅配で送られてくるのが不安かもしれませんが、筆者は今まで何度か使っていてトラブルはありません。

地図

Google Map (My Map)

訪問する場所を「マイマップ」機能を使って保存しておくと便利です。現地では、コピーして持って行き、タクシーの運転手に見せたりできます。さらに組織内でも共有すれば、今後同じ場所に行く人がわざわざもう一度訪問先の住所を調べる必要はなくなりますね。

まとめ

海外出張前は色々とバタバタとするので、こういった便利なサービスを使ってサクッと準備を終わらせたいですね。

2014年10月30日木曜日

第1回日本人キルギス語スピーチコンテスト 開催される

※過去に「ユーラシアイベントガイド」で公開した記事の転載です。

※第2回キルギス語スピーチコンテストが開催されるようです。詳細はこちらから

10月26日(日)、東京都目黒区の在日キルギス共和国大使館にて、第1回日本人キルギス語スピーチコンテストが開催された。
日本人の出場者は6名。第1回ということで、スピーチの時間に厳しい制限は無く、原稿を見ながらの発表も許されていた。

ゆるやかなルールではあったが、参加者は、主催者が想定した以上に十分な準備をして望んだ。
まず、キルギスの伝統楽器「コムズ」奏者の池田さんは、コムズの特徴や魅力を分かりやすく語った。

次に、青年海外協力隊員として2年間キルギスに滞在した桑山さんは、キルギス語・日本語辞書を作るに至った経緯を、ユーモアたっぷりに話した。続いて、東北大4年の永野さんは、東北の古代史についてのアカデミックなスピーチをキルギス語で行った。ロシア語教師の杉原さんは、キルギスで参加した結婚式の思い出を楽しげに話した。永野さんと同じく東北大4年の笹川さんは、東日本大震災の記憶と、復興の様子を真剣な眼差しで語った。最後に、キルギスで働いた経験のある檜垣さんは、キルギスでの生活を原稿を見ずに語り、最後にキルギス語、ロシア語、日本語の3言語での歌も披露した。
発表する参加者の様子(駐日キルギス共和国大使館Facebookページより)

実力者揃いの中、優勝を決めたのは桑山さん。

優勝商品のキルギスの民族衣装(上着と帽子)を身につけた桑山さんは「優勝どうこうよりも、こういう機会に集まれるのがうれしい。トルコ語をやっていてキルギス語も始めた学生さん、コムズからキルギスに興味を持った人など、いろいろなご縁の方と出会うことができた」と語り、キルギス語を通じて生まれた繋がりを喜んだ。
審査委員長を務めた駐日キルギス大使のモロドガジエフ・リスベク氏は、スピーチコンテスト開催の目的について、1つ目は「キルギスのことをもっと知ってもらうこと」とし、2つめの目的については「最近はキルギス語を話せる、キルギスのことを深く理解している日本人がますます増えている。そういった人たちを励ましたかった」と語った。
審査委員は、モロドガジエフ大使のほか、来日中のキルギス共和国文部科学省「キルギステストシステム」代表のバトマ・トポエヴァ・スタヴィンスカヤ氏など、あわせて4名。
モロドガジエフ大使は「今年は一回めだが、これからも毎年開催したい」と、今後のキルギス語スピーチコンテストの継続に意欲を示した。
※キルギス共和国は中央アジアの独立国家。中国やカザフスタンと国境を接する。人口約550万人。憲法により、国家語がキルギス語、公用語がロシア語と規定されている。

結果発表を聞く参加者(左)、コメントを発表する審査員(右奥)

2013年5月3日金曜日

ビシュケク(キルギス)の本屋事情

はじめに

キルギス共和国の首都・ビシュケク。 カザフスタンのアルマティと違い、本屋の数は非常に少ないです。 しかも、なかなか見つけづらいし、天候にも左右されます。
……天候?
どういうことか気になる方は、ぜひ読み進めてくださいね。 以下、ビシュケク市内の本屋情報です。
(情報は記事投稿時点のものです。状況の変化は大いに考えられるので、ご注意ください)

Раритет(ラリチェット)

市内に何店舗かある本屋さんです。 ロシア語の本がほとんどですが、キルギス語の本も僅かに置いてあります。
ロシア語の本については品揃えが豊富です。 デパートのテナントとしても出店していますが、 独立型の主要な店舗は次の2つです。

チュイ通り店(?)

住所:г. Бишкек, пр. Чуй, 271
チュイド大通り沿い、オシュバザール付近にあります。 看板は出ていますが、すぐには見つけられないかもしれません。 写真がなくて申し訳ありません(><)。 ここの特徴は、新品本と共に中古本も扱っているところです。 2階の、レジに向かって左側の小部屋に、古本が置いてあります。
状態のいい本や貴重な本があるので、大変重宝しました。

センター店(?)

住所:г. Бишкек, ул. Пушкина, 78
中心部・アラトー広場のすぐ脇にあります。 お店の看板付近の階段を少し下りた所が入り口となります。 「ここ、本当に本屋さんなの?」という感じの入り口ですが、 中に入ると意外と広い。 こちらもロシア語の本がメインです。 キルギス語の本、現地のロシア語出版物は本棚2つ分くらい。

Одиссей(オディッセイ)

住所:г. Бишкек, пр. Манаса, 40
多目的ホール「フィラルモーニア」の近くにあり、看板も出ており目につきやすい。 ここもロシア語の本が多いが、Раритетより現地出版物の品揃えは豊富な印象です。 Дом русской книги(ドーム・ルスコイ・クニーギ)

Нуска(ヌスカ)

住所:Эркиндик бульвар, 56(google mapで検索しても出ないので注意)
ビシュケク市内で、唯一キルギス語の本・現地出版物を専門に扱っている本屋さんです。 その意味で非常に貴重。店内はあまり広くないが、所狭しと本が積まれている…
とはいえ、「え、これだけ?」と思ってしまう程度の量ではある。 一度は行ってみよう。

露天

さて、以上が店舗なのですが、ビシュケクの面白い所は、 露天の本屋さんが割と充実しているところです。
私が知る限り、次の場所でよく露天の本屋さんを見かけます。

アラトー映画館前

いつも2つくらい島があり、それぞれ全く別の店なのか、 それとも提携しているのかよくわからない。
ロシア語の本とキルギス語の本をわりといい塩梅で揃えています。 新品の本が多いですが、すこし汚れていたりします(だからといって安い訳ではないです)。 他の店では扱っていないような、珍しい本を見かけることもあります。

キエフスカヤ・ソヴィエツカヤ

ツム(中央百貨店)付近、キエフスカヤ通り・ソヴィエツカヤ通り交差点のあたりに、 露天の古本屋さんが大小いくつかあります。
道端に本を広げているだけの店は、居るときと居ない時がありますが、 倉庫を持っているお店は、倉庫の前でいつも本を広げています。
それがこちら。
…犬が店番している(笑)
これは盗めませんね。
ちなみに、店主(?)は、とても気さくなおじさんです(右手前)。

まとめ

以上、ビシュケクの本屋さんを紹介しました。 冒頭で「充実していない」と言った割には、 書き出してみるとなかなか豊富にあるんじゃないかと思い直しました。 ビシュケクへお越しの際は、ぜひ現地でしか買えない本をお土産にしてみてはどうでしょう。