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2017年7月31日月曜日

日本型就活は死ななくてもよい:海老原嗣生『お祈りメール来た、日本死ね』



「2018年卒の就職活動も終盤になってきた」ーなんていう表現は、極めて日本的なものでしょう。2018年春に卒業する学生は、おおよそ2017年の3月から会社説明会へ参加して志望する企業へエントリーし、6月ころから選考が始まり、8月、9月には内定を得て、進路を決める。10月には内定式、2018年4月には入社・・・これが、日本的就職活動の模範的なスケジュールとなっています。

徹底解説! 2018卒 就活スケジュール - 就活支援 - マイナビ2018

こうした就職活動は、日本型新卒一括採用の特徴(大概において「弊害」)として語られることが多くあります。

本書、『お祈りメール来た、日本死ね ー「日本型新卒一括採用」を考える』は、その日本の大卒者の就職活動と日本型新卒一括採用の「光と陰」を取り扱った新書です。


タイトルにある通り、2016年にネットの書き込みから話題となった「保育園落ちた、日本死ね」をもじっています。文体はあえて軽く書かれているのだと思いますが、扱っている内容は至って真面目です。

内容を、かいつまんでお話します。

就活の悩みは戦前からの100年論争

「就活」に関しては、様々な問題がメディアでクローズアップされています。非個性的なリクルートスーツ、画一的な面接ノウハウ、既卒者の不利な扱い、圧迫面接、就活による学業への影響・・・等々。

これだけの問題が報じられていることから、就活問題というのは最近の現代的な問題のように感じられますが、歴史をひもとくと100年近く前、戦前からも続く、歴史の長い問題なのです。

それが、冒頭の第1章から解説されています。

特に問題となってきたのが「就活時期」の問題で、1928年にはじめての「就職協定」が当時の大手企業によって作られて以後、景気状況によって破られたり、ころころと時期が変わったりを繰り返して今に至っています(p.27参照)。

かつては、大学進学率は今ほど高くなかったので、大卒者の就活というのはごく限られた人の問題だったのでしょう。しかし、大学進学率が50%を超えた今、就活は多くの人が直面する問題となっています。また、グローバル化が進む中で、企業経営の観点からも新卒一括採用が見直されつつあります。そのためメディアでも大きく取り上げられ、「現代特有の」問題というように認識されているのだと思われます。

欧米型採用の闇

タイトルから想像すると、本書は日本型一括採用とそれに合わせた就活を批判する内容かと考えがちですが、それは違います。

欧米型採用の光と闇、特に闇の部分を紹介し、その上で日本型採用と比較しています。
欧米では日本のような新卒一括採用ではなく、在学中から長期インターンシップなどに取り組み、卒業後も期限付きのポジションなどで実務経験を積んだ上で採用されるというのが大半です。

この形式だと、新卒も既卒も関係なく公平に実力で採用される、採用されるために高いモチベーションで専門性を身につけられそうだ、企業にとっても即戦力を採用できる・・・といったメリットが思い浮かびます。

では欧米型採用の闇とは何なのでしょうか。

一例として紹介されているのが、インターンシップが「雇用の調整弁」として、つまり格安の労働力として使われているという点です。

本書で紹介されているのはフランスの例。一部のエリートにはそれなりの給料が支払われるようですが、ノンエリートがインターンシップ(実習期間)で手にできる給料は、なんと最低賃金の3分の1程度。日本円でいうと月5万円程度だそうです。

欧米では解雇がしやすい、というイメージがありますが、実際のところは日本以上に解雇規制が厳しい所もあります。なので、格安で短期間雇えるインターン生は、企業にとって都合の良い存在なのです。

著者は次のように言い切っています。
そう、欧州のインターンシップは、企業にとって使い勝手の良い雇用調整弁という側面がある。だから企業はインターン生を重用する。あちらの国でも、決して社会貢献や企業の社会的責任のみで受け入れているわけではない。(p.127)
それでも大半はインターンで実務経験を積まないと望むような職につけないため、みなインターンシップに取り組むわけです。なお日本によくあるような職業体験的なインターンシップではなく、普通の業務に取り組みます。

まとめ:日本型就活はこれでいいの・・・か?

欧米的な採用環境で、厳しい条件でインターンシップをし、必死で実務経験を積んで職につく・・・そしてその先も、エリート候補以外は一定以上には出世できず、より良い条件の仕事に就くためには転職や学び直しを繰り返す。

そういった環境と、日本型就活を経て新卒入社し、企業研修で育ててもらい、熾烈ではあるが誰もにチャンスがある(ように見える)出世レースに参加するか。

そのどちらが良い・悪いというのは著者は述べていません。2つを比較した上で、日本型新卒一括採用と日本型就活に対する改善策を提案しています(その内容は本書内でお読みください)。

私も、どちらが良い悪いという問題ではないと思います。それに、就活を経て企業就職する以外に、公務員、教員、起業、家業を継ぐ・・・など、キャリアの選択は色々あります。

1つ言いたいのは、日本型就活のメリットは活用できる余地がある ということです。

何の実務経験もない学生を、専門性もさほど問われずに正社員として採用してもらえるだなんて、ノンエリートの欧米の学生からみたら垂涎ものでしょう。

実際に私も、人文系が専門だったにも関わらず、新卒エンジニアとして採用してもらえました。欧米であれば、履歴書だけで完全に門前払いだったでしょう。

日本型就活は確かにプレッシャーも大きく大変だと思いますが、その幸運な環境を活かしたい人にとっては絶好の機会ではあるので、自分自身のために 「就活とやらを大いに利用してやるぞ」ぐらいの大きな気持ちで望んでもよいのではないでしょうか。

2017年3月28日火曜日

「21世紀型スキル」はしんどい

画像は21世紀型スキルとは関係ありません。

「21世紀型スキル」という用語が、ここ数年、教育関係の中でもバズワード(流行語)のようにして広まっています。これについて、思ったことをまとめてみました。タイトルの通り「21世紀型スキルはしんどい」のでは、という話です。

「21世紀型スキル」とは

21世紀型スキルとは、「21世紀を生き抜くために育むべき能力」のことです。
21世紀型スキルには唯一絶対の定義があるわけではなく、様々な団体が定義付けを試みています。

よく引用されるのは、国際団体ACT21sが定義している「21世紀型スキル」です。
思考の方法
  • 創造力とイノベーション
  • 批判的思考、問題解決、意思決定
  • 学びの学習、メタ認知
仕事の方法
  • 情報リテラシー
  • ICTリテラシー
仕事のツール
  • コミュニケーション
  • コラボレーション(チームワーク)
社会生活
  • 地域とグローバルのよい市民であること
  • 人生のキャリア発達
  • 個人の責任と社会的責任
(上記訳は、人工知能に負けない子ども、どう教育するかより。)
(ところでこれを提唱したACT21sのウェブサイトは閲覧できない状態になっていますし、2015年ころ以降の情報がネット上では見当たりません。解散したのでしょうか。)
また、OECDは、非常に分厚い報告書で「21世紀に必要なスキル」を詳述しています。

Chapter 1: The skills needed for the 21st century

アメリカのウォルト・ディズニー社やフォード社がメンバーとなっているP21(Pertnership for 21st century learning)という組織にも定義付けがあります。

FRAMEWORK FOR 21ST CENTURY LEARNING

おおよそどこの団体も、ACT21sと同様のことを提唱しています。つまり、単純に教科の知識を得るだけでなく、個人の高度な思考能力(批判的思考能力など)、さらに価値観の異なる人々と協働し、情報技術を活用して、イノベーションを起こす能力・・・などが求められているのです。

これらのスキルが「21世紀型」と言われているように、20世紀を生きるためには、多くの人にとって必ずしも必要でない能力でした。20世紀は、言わば「やる気・元気・思いやり」とテストでそこそこいい点数を取る能力があれば、なんとか生きてこれた時代でした。学校教育もそのようにデザインされていました。

しかし21世紀は違う、と。グローバル化の進展により、様々な思想・背景の人たちと仕事をしなければいけない。さらに技術革新で多くの仕事はAI(人工知能)、ロボットに置き換えられてしまう・・・。

そんな時代を生き抜くためには、上述のような「21世紀型スキル」が必要だと言うのです。

21世紀型スキルはしんどくないか?ー「自己再生力」の必要性

教育に携わっている人間が言っていいことか分かりませんが、正直、「21世紀型スキルを身につけるってしんどくないか?」と思ってしまいます。求められる要素が非常に多く、レベルが高いです。「22世紀スキル」は、いったいどんな風になってしまうのでしょうか。気になります。教える方もしんどいです。というよりも、教える側が21世紀型スキルなんて十分に身につけていない場合が多いのです。

しかし、現代〜何年か先の社会が「21世紀型スキル」を求めているというのも現実です。そして、21世紀型スキル(のようなもの)が求められる社会というのは、やはりしんどい社会になりそうです。

そんな時に、どう対処したらいいのでしょうか。

示唆的なのは、リンダ・グラットン氏が未来の働き方について書いた著書『WORK SHIFT』の中で提唱している「自己再生のコミュニティ」の必要性です。


未来の働き方は、今以上に時間の使い方が細切れとなり、バーチャルな空間での仕事が多くを占めるようになる。そうなると、必然的に孤独感と強いストレスが蓄積されていきます。グラットンは、そのことを前提として、バーチャルなコミュニティに頼らない、リアルな場で幸福感を高めてくれるつながりが必要だ、ということを主張しています。
自己再生のコミュニティのメンバーとは、現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったりして、くつろいで時間を過ごす。生活の質を高め、心の幸福を感じるために、このような人間関係が重要になる。
リンダ・グラットン著(池村千秋 ・訳)『WORK SHIFT』p.309-p.310

一見、「友達は大切だ」「家族は大切だ」というような、当たり前のことのように感じます。しかし、その当たり前のことが、未来の働き方をしていると、どんどん自明のことではなくなっていくのです。グラットンは次のように書いています。
重要なのは、自分で選択して、そういう人間関係を築くことだ。この種の温かい人間関係が当たり前のように手に入る時代が終わり、意識的に自己再生のコミュニティを築く必要が増すのだ。
前掲書 p.310

話を21世紀型スキルへ戻すと、21世紀型スキルが求められるような職業というのは、『WORK SHIFT』に書かれているような、高い能力が求められ、時間に追われ、放っておくと心身を消耗するような仕事のはずです。

それを前提として、グラットンの言うような「自己再生のコミュニティ」、あるいは個人としての「自己再生力」の必要性についても、21世紀型スキルとの関連で教えるべきだと思います。

具体的にどう教えるべきかというのは別の機会に考えたいのですが、ともかく、一方的に能力の伸長を求めるばかりではしんどいので、そのしんどさを乗り越えるための方策も、今後の学校教育と家庭教育の中に意識的に取り入れていかなければならないはずです。

まとめ

21世紀型スキルの概念と、それに関連して自己再生力の必要性について書きました。

グローバル人材育成系のプログラムに多少関わっている身としては、21世紀型スキルについて事例など調べて掘り下げるとともに、自己再生というキーワードも考えていきたいと思います。

2017年1月9日月曜日

manabaはなぜダメなのか

突然、煽るようなタイトルですみません。
manabaは株式会社朝日ネットが提供するLMS(Learning Management System)、ポートフォリオシステムです。ここ10年以内くらいに大学や専門学校を卒業した方であれば、何らかのシステムにログインして課題を提出したり、出席を記録したりしたことがあるかもしれません。manabaもそんなシステムの一種です。どんなシステムかは、公式サイトの紹介をご覧ください。

教育支援サービス 「manaba」|株式会社朝日ネット


manabaの画面イメージ(公式サイトより)


慶応義塾大学、中央大学、国際基督教大学など、多くの大学がこのmanabaを導入しています。私の勤務先も導入しています。日本では、moodleと並んで最もよく使われるLMSの1つではないかと思われます。

このmanabaを使うことで、学習の成果を1箇所にまとめることができる(ポートフォリオ)、学生同士・または教員との授業前後のインタラクティブな学習が可能になる、などといった効果が期待できます。

manabaのがっかりなところ

さて、そんなmanaba。私も活用しています。ないよりはあった方がいいのですが、個人的にがっかりな点がいくつかあるので、あえて指摘します。

1. スマートフォンアプリがない

manabah「モバイル対応」をうたっていますが、あくまでスマートフォンのブラウザから閲覧できる、という意味です。iOS、Androidアプリはありません。スマートフォンのブラウザでmanabaへアクセスすると、スマートフォン用のmanabaページが表示されます。これをショートカットとしてスタート画面にアイコンを配置すれば、あたかもアプリのように使えます。が、誰もがその方法を知っているとは思えませんし、単なるショートカットなのでアプリのようなプッシュ通知はありません。やはり今の時代、モバイルアプリは必須だと思います(もしかしたら開発中かもしれませんね)。

2. インターフェイスがひと昔まえ

決して分かりづらいわけではないですが、ユーザーインターフェイスとデザインがひと昔前のウェブを彷彿とさせます。例えるなら、mixi的なインターフェイス、デザインです(皆さん、mixiって覚えていますか?そもそも知っていますか?)。manabaがリリースされた年代からいって、mixiを意識していたんじゃないかと思います。ただ、時代は進みましたので、FacebookやTwitter、LINEなんかに慣れた学生世代からすると、直感的に使いづらく、ややとっつきにくいインターフェイスではないでしょうか。

3. コメントのやりとりが気軽にできない

LMSを導入する狙いとして、学生同士または教員とのインタラクティブなコミュニケーションを促進し、学生の主体的な学習を促すことが挙げられます。しかしmanabaでの交流は、私が見る限り活発に行われている例はあまりありません。manabaでのコメントのやりとりは「掲示板」形式です。話題ごとにスレッドを立てて、それに返信を書いていく、という形です。スレッドはツリー状になっていきます。この形式もやはり、最近のフィード に次々と投稿が流れてくるSNSに慣れた世代には使いづらく、どうやって使ったらいいのか躊躇するレベルだと思います。mixi世代にとっても、もはや使いづらいです。せっかくのLMSの狙いが実現できていません。

1~3の理由があってか、いまいちmanabaは定着していません。定着させるには、教員、学生ともにかなりの努力が必要になります。

manabaをやり玉にあげたような形ですが、他のLMSも似たり寄ったりの状況か、manabaよりも悪いかもしれません。manabaはモバイルアプリは無いとはいえ、ブラウザでのスマートフォン対応はしています。私は他のLMSでは数年前のmoodleしか使ったことはありませんが、当時はスマートフォン対応なんて皆無でしたね。moodle、今はスマートフォン対応されているのでしょうか?

manabaへの要望

がっかりなところ1~3を踏まえて、個人的なmanabaへの要望をまとめてみました。

1. モバイルアプリ(iOS、Android)の開発

朝日ネット社は、関連サービスとしてモバイルアプリのmanaba +responをリリースしているくらいなので、モバイルアプリを作る技術力は確かにあるはずです。あくまで推測ですが、manaba本体にモバイルアプリがない理由は、導入先の学校ごとに微妙なカスタマイズがされていたりして、モバイルアプリの仕様を統一するのが難しいからじゃないでしょうか?逆に、そのような障壁がなければ、モバイルアプリは一刻も早く開発した方がいいと思います。今なら、国産LMSとして不動の地位を築けます。

2. コメント形式をフィード式に&「いいね」ボタンの導入

がっかり3で指摘した点に関して。フィードバックを促進するためにも、FacebookやTwitterなどを参考に、フィード上にコメントが流れてきてその場ですぐに返信できる形式にすべきです。また「いいね(Like)」ボタンを導入し、もっと簡単にポジティブなフィードバックをできるようにすることを提案します。発言や課題提出に対して、無反応よりも「いいね」を押された方が、学生のモチベーションはぐっと上がるのではないでしょうか。

3. ユーザーインターフェイスやデザインの見直し

manabaにはmanabaなりの「設計思想」があると思いますが、モバイルアプリのリリースに合わせて、モバイル優先の設計思想に変えてはどうでしょう。現在のmanabaは明らかにPCでの利用を前提としています。しかしmanabaで出来ることを考えると、今のタブレットやスマートフォンで出来ないことはほとんどありません。スマートフォンでレポートを書く学生がいる時代です。モバイル優先で直感的に操作できるインターフェイスにすれば、利用率は大幅に上がるのではないでしょうか。

4. APIの開放

ちょっと専門的な話ですが、APIを開放して欲しいな、と思います。APIとは、システムの機能を外部からのアクセスで活用できるようにする仕組みのことです。例えば、Twitterに何か投稿したら同じ内容をFacebookにも投稿する、といった機能を使ったことがあるかもしれませんが、これもAPIです。TwitterとFacebookがAPIを開放することで、相互連携が可能になっているのです。

この仕組みをmanabaにも導入したら、多くの可能性が開けると思います。例えば、レポートの提出締切を登録したらそれがGoogleカレンダーにも自動で同期されるとか、コースの掲示板に書き込んだら外部のメーリングリストに流してくれるだとか、そういった連携が可能になります。さらにAPIを活用すれば、独自の教育アプリケーションも開発できるようになります。

さいごに

manabaに対して苦言を呈す形になってしまいました。しかしこれも、manabaに大きな期待を持っているがゆえの提言です。素晴らしいLMSに成長し、日本の教育を伸ばすツールとなってほしいと、心から願っています。

2016年12月27日火曜日

JASSO留学支援奨学金のネ申エクセル問題について

自民党の河野太郎議員が、科研費の申請書などで使われている、非常に扱いづらく煩雑なエクセルファイル、通称「ネ申エクセル(または神エクセル、以下「神エクセル」)」を廃止するよう提言したことが話題となっています。

データとして役立たない「神エクセル」問題に解決の兆し 河野太郎議員が文科省へ全廃を指示

これに似た問題が、JASSO(日本学生支援機構)留学支援奨学金関係の神エクセル問題です。すでにどなたかが問題提起されているかもしれませんが、大学で国際交流に携わっている私からも、問題提起させてください。

※ネ申(神)Excelについては三重大学の奥村先生が書かれた論文に詳しいので、そちらを参照してください:「ネ申Excel」問題

JASSO留学支援奨学金とは

JASSO(日本学生支援機構)は、経済的に支援が必要な学生を対象に奨学金を提供している独立行政法人です。JASSOの奨学金は返済が必要であり、実質は学生ローン。奨学金の返済ができずに破産する例が相次ぐなど社会問題となり、平成29年度からは返済不要の奨学金が始まります。

実はこのJASSO、通常の奨学金の他に、海外留学をする学生、また海外から日本へ受け入れる学生に対して返済不要の奨学金も支給しています。今回取り上げたいのは、大学間協定に基づく交換留学を支援する奨学金にまつわる書類についてです。

JASSOが提供する神Excelについて

まずは、日本人学生の海外留学を支援する、JASSO(日本学生支援機構)協定派遣のページをご覧ください。

http://www.jasso.go.jp/ryugaku/tantosha/study_a/short_term_h/2016.html

平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)事務手続きについて>「1.事務手続きの手引き・様式等」のところに、大学の海外派遣担当者が提出しなければいけない書類が掲載されています。

ぜひ、1つ1つ、Excelファイルをダウンロードして中身を見てみてください。

例えば、平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)登録データ
留学期間を数値で入力すると、右の 月別に別れた列に、自動で ○ が入力されていきます。高機能です。「開始月と終了月の合算日数(BF)」列が閏年で計算される不具合」があったようですが、つい先日、修正されたようです。


・・・めまいがしてきませんか?

この他にも、提出すべきExcelファイルは盛りだくさんです。非常に神々しいExcelファイルの数々です。あまりの煩雑さに、毎年、毎月、留学担当者たちは悲鳴をあげているのです。しかも様式が年度によって変わったりするのがまた大変で・・・。

職員だけでなく、学生も大変です。奨学金を受給した学生は、受給期間終了後にいくつかの書類を出す必要がありますが、そのうちの一つがこれ:平成28年度海外留学支援制度(協定派遣)報告書関係様式(様式G~J) 。「様式H-3」というシートをご覧ください。Excelで、横にずーーーっと続くアンケートに回答しなければいけません。小さな正方形の中に回答を入力しないといけないのです。学生はお金をもらっている側なので、文句は言えません。粛々と回答して提出してくれます。


これを提出されて集計する方のJASSO職員の方々も、おそらく相当な苦労をされているはずです。ちなみに大学からJASSOへの提出は、一部は紙で、一部はExcelで、となっているみたいです。

その背景について推測

なぜこのような 神エクセルが誕生してしまったのか。私はJASSO内部の者ではないので、その背景は分かりませんが、推測はできます。

JASSOの留学支援奨学金は、借り手からの返済で成り立っている通常の奨学金と違い、国の予算から直接支出されているものです。なので、きちんと目的に適った利用がされているという証拠を残さねいけません。よって、誰に対して奨学金が支給され、どのような効果があって、という情報を、できるだけ細かく蓄積しておかないとならないのでしょう。

しかし、このような煩雑な書類作成ばかり求められるとなると、大学ではそれなりの数の事務スタッフが必要ですし、JASSOでもスタッフが必要となります。その人件費や、掛けられている膨大な時間をもっと有意義なことに使えるのではと思います。

解決策は?

エクセルを廃止して全てをウェブシステム化…というのが理想かもしれませんが、システム化にはデメリットがつきものです。下手なシステムを作ってしまうと、エクセルよりも作業が煩雑になってしまい、かつ莫大な制作コスト、運用コストがかかります。まずは現状の運用方式での簡素化・合理化、業務フローの見直し、一部のシステム化などから始めてもよいのではと思います。

私は末端のいち担当者なので何の力もありませんが、とにかく、ここにも「 神エクセル問題」があることを知っていただけたら幸いです。

2016年12月20日火曜日

ショートカットキーを使うと人生が変わる・・・かも

「ショートカットキー」なるものを、どこかで聞いたことはあると思います。パソコン操作の「切り取り」や「貼り付け」を、マウスの右クリックではなくキーボード操作だけで行うことです。

聞いたことはあるけど、覚えるのが面倒でやっていない、という人が多いのではないでしょうか。

しかし、ショートカットキーを使うのと使わないのとでは、パソコン作業の効率性が大きく変わると言われています。

ショートカットキーの効率性

ショートカットキーを使うと、パソコン操作の効率性は上がります。

少し古いですが、2005年のある論文では、Wordの操作(コピー、ペースト、開く、保存など)を1.メニューから選択、2.アイコン操作、3.ショートカットキー利用の3タイプで被験者の反応速度を比較したところ、ショートカットキーを利用した方が効率が良いという結論が出されています。

Hidden Costs of Graphical User Interfaces: Failure to Make the Transition from Menus and Icon Toolbars to Keyboard Shortcuts (2005) by Lane, Napier, Peres and Sándor

ネット上の記事、ブログでもショートカットキーの重要性は盛んに言及されています。ショートカットキーの書籍もいろいろ出ています。

どんなショートカットキーがあるのか

ショートカットキーは膨大な量があります。Windows、MacなどOSそのもののショートカットキーがあれば、それぞれのソフトに独自のショートカットキーが大量にあります。

それら全てを使いこなすのは非常に大変ですが、まずはよく使うものから覚えましょう。

ここでは、文書作成ソフトやメールソフトでよく使う、5つのショートカットキーを紹介します。いずれも「Ctrl(コントロール)」を押しながら、アルファベットのキーを押します。Macの場合はCtrlをCommandに代えれば使えます。

  1. コピー 「Ctrl」+「C」
  2. ペースト(貼り付け)「Ctrl」+「V」
  3. 切り取り「Ctrl」+「X」
  4. 元に戻す「Ctrl」+「Z」
  5. 保存「Ctrl」+「S」

1〜5まで、どの操作も頻繁に使いますよね。その時に、1回1回、キーボードからマウスに手を動かして右クリックして・・・だと、効率が悪いです。

また5「保存」のショートカットキーを覚えて、変更を加えたらすぐに保存する癖をつけましょう。頻繁に保存をすることで、「せっかくファイル作ったのにデータが消えた!!」といったうっかりを防げます。

他にもショートカットキーは大量にあります。気になる人は下記のサイトを見ましょう。
仕事の効率がUPする【Windows】基本ショートカットキー40選

ショートカットキーの覚え方

ショートカットキーに慣れていない人は、キーの組み合わせを覚えるのが大変かもしれないです。

私のオススメは、ショートカットキーを ゲームのコマンドと思って覚えること です。ゲームにはまったことがある人なら、格闘ゲームで技を繰り出すコマンドや、裏技のためのコマンドを覚えたと思います。私もパワプロという野球ゲームで、上上下下左右左右スタートという裏技コマンドを覚えて何度も繰り返していました。

要は、仕事をゲームだと思えばいいのです

ショートカットキーを、いまのステージを早くクリアするために必要な技、そのためのコマンドと思えば覚えられませんか?

ショートカットキーがうまく使えたら「よっしゃ、技が決まったwww」と内心で喜びましょう。

まとめ

これほど重要なショートカットキーですが、義務教育の情報の時間には習った記憶がありません。私自身は、なぜか大学1年の英語の授業でショートカットキーの話題が出て、そこではじめてショートカットキーの便利さ、重要性に気づきました。

新入社員向けの研修などでショートカットキーが教えられるかもしれませんが、そんなまともに研修を行っているところばかりではないと思います。

学生の間に、レポートや論文を書く機会にショートカットキーを身につけておいたほうがよいです。

2016年12月1日木曜日

大学院生は知っておきたいTransferable Skills について


「高学歴ワーキングプア」が話題となりましたが、今やそれが当たり前の現実、周知の事実になってしまいました。

修士号、博士号まで取得したのに低賃金な仕事しかできない状況は、政府の方針や構造的な問題もありますが、社会が変わるのを待っていても問題は解決しません。

そこで、解決の糸口になるかもしれないキーワード「Transferable Skills」について紹介します。

Transferable Skillsとは?

Transferable Skillsとは、日本語に訳せば「移転可能な技能」となりますが、「別の分野でも通用するスキル」とも言えるでしょう。 大学院まで進学して専門的な技能を身につけても必ずしも社会で直接活かせる訳ではない、というのは日本に限らずどこでも同じです。

そこで英国を中心とするヨーロッパ圏では、2000年代くらいからTransferable Skillsというのが言われ始め、専門分野を極めつつも別の領域にも通じるスキルを身につけましょう、という動きが出てきたようです。

この流れについて、以下の論文に詳しく書かれています。

山内, 保典; 中川, 智絵,「イギリスの大学におけるTransferable Skills Trainingの取り 組み : 日本の科学技術関係人材育成への示唆」科学技術コミュニケーション = Japanese Journal of Science Communication, 12: 92-107, 2012 http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/50975/1/JJSC12_007.pdf

この論文の中で、Transferable Skillsの定義については、欧州科学財団 (European Science Foundation) の報告書(2009)から、次のような引用がされています。
「1つの文脈で学んだスキル,例えば,研究を行う上で学んだスキルのなかで,他の状況,例えば,研究であれ,ビジネスであれ,今後の就職先において有効に活用できるようなスキル.Transferable Skillsがあれば,学問領域及び研究関連のスキルを効果的に応用したり,開発したりすることも出来るようになる.このスキルは様々なトレーニングコースを通して学んだり,研究や業務に携わる日々の生活の中で得たりする」
ちなみに、研究以外の文脈でもTransferable Skillsというキーワードは使われます。特に転職界隈の話題では「いまの会社・業界だけではなく他社・他業種でも通用するスキル」という意味あいで用いられます。

参考:トランスファラブルスキル(日本の人事部)

どのようにTransferable Skillsを身に付けるか?

日本の大学では、Transferable Skillsという名称は使われていないものの、それに類する個々のスキル開発のコースや授業はそれなりにあるでしょう。「グローバル人材」、「国際交渉能力」、「社会人基礎力」といったキーワードが含まれた科目・コースや、その他なんたら人材育成プログラム系は、Transferable Skillsの考え方に近いものがあると思われます。

ただ、やはり専門家育成の比重の方が大きく、Transferable Skillsを念頭に置いた教育プログラムなどは少ないと思います。なので、大学院生は普段の研究活動から、自分で意識的にTransferable Skillsを身につける必要があります。
例えば、次のような活動を通して、Transferable Skillsを身につけられるでしょう。

論文の執筆、共同研究

「いつまでに完了させる」というゴールを設定し、そこから逆算してタスク(資料収集、インタビュー、実験等)を細分化してそれぞれに期限を付け実行する。これはあらゆる仕事をこなす上での基本です。やる気と集中力と才能で何とかなってしまう人もいそうですが、それは一時の勘違いだと思ってください。
また、特に文系の大学院の場合は、研究は基本的に一人で行うという場合が多いでしょう。そんな環境でも、共同でプロジェクトに取り組む機会を探しましょう。チームで共同作業を行うことで、プロジェクトマネジメント、リーダーシップの力を身につけることができます。

ディスカッション、プレゼンテーション

分野にもよると思いますが、大学院ではディスカッションやプレゼンテーションを行う演習形式の授業が多いでしょう。ディスカッションの参加者となるだけでなく、議論を導く立場(ファシリテーター)も経験させてもらいましょう。ファシリテーションについては、様々な書籍があるので、参考になります。プレゼンテーションは、場数を踏むほど上手になります。発表資料の作成技術もこの際身につけてしまいましょう。

学部生の指導

授業のティーチングアシスタントとして、また研究室の先輩として、学部学生の指導をすることもあるでしょう。面倒かもしれませんが、これは素晴らしい機会です。人材育成の一旦を担っていると自覚して、学部生の学修モチベーションを上げるように活動しましょう。言い方は悪いですが、後輩たちを「実験台」にして、人がどのように育つか(あるいは育たないか)を客観的に観察すると、将来役に立つんじゃないかと思います。

他にも語学力、PCソフトの操作スキル、コミュニケーション能力、統計知識など、研究以外の場へも転用可能なスキルを身につけることができるでしょう。これらのスキルを十分に身につければ、アカデミックな世界で行き場がなくなっても、途方にくれる必要がなくなります。

まとめ

私が大学院生のころは、Transferable Skillsなんていう言葉は知りませんでした。が、振り返ってみると、国際学生会議のプロジェクトに参加したり、修士論文を様々な工夫をして(付せんを使ったタスク管理、Evernoteを使った情報整理など)計画的に進めたりしたことで、その後の会社員生活や現在の仕事に活かせるスキルが身についていたと思います。Transferable Skillsの考え方を最初から意識していれば、さらにいろいろな活動に挑戦していたかもしれません。

学部生も、もちろんTransferable Skillsを意識することは重要です。ただ学部生が卒業後に働き出し様々な実務スキルを磨くのに対し、学部からすぐに進学した大学院生の場合、数年もその機会を逃してしまいます。いま大学院生のひとは、アカデミックなキャリアを志望するひともそうでない人も、自分の研究活動を通じて、どのようなTransferable Skillsが養われるのか、考えることをおすすめします。

2016年11月29日火曜日

一瞬で大量の情報取得!スクレイピングサービスimport.ioを使ってみる

スクレイピングとは

スクレイピングは、聞きなれない言葉だと思います。スクレイピングとは、
Webスクレイピングとは、WebサイトからWebページのHTMLデータを収集して、特定のデータを抽出、整形し直すことである。
という意味です(IT用語辞典)。HTMLはウェブサイトを作る言語のことですが、そのHTMLを分析してページの構造を把握し、データを機械的に抽出するという仕組みです。

スクレイピングをやってみる

それでは、スクレイピングでどんなことができるのか、試してみましょう。日本の外務省のプレスリリースを一括で取得することを目標とします。

外務省プレスリリース:http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/index.html

ではその手順です。

import.io(https://www.import.io)にアクセスします。登録は無料です。FacebookやGoogleアカウントがあれば、すぐにログインできます。


この画面で、New Extractorを押して、新しいプロセスを作成します。


こんなポップアップが出てくるので、外務省プレスリリースのURLをコピーペーストしましょう。そしてGo。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/index.html



数秒待つと、このような画面が出てきます。データ解析が正常にできたということです。右上のDoneを押しましょう。


こんな画面になります。これで外務省のプレスリリースを取得するというプロセスは設定できました。真ん中あたりのRun URLsを押すと、最新のプレスリリース情報を取得しに行きます。


情報を取得できたら、CSVでダウンロードできます。CSVはExcelで開けますが、日本語だと文字化けするかもしれません。Open Officeというソフトを使うと、文字化けは防げます。


「なんだこれだけか」と思うかもしれませんが、さらにいろいろできます。指定できるURLは1つではありません。例えば、このようにURLを複数指定すれば、数ヶ月分のプレスリリース情報を一括で取得できるのです。


また有料版($249/月〜)にすると、プロセスを動かすスケジュールを設定することができます。例えば、外務省のプレスリリースを毎日自動で取得する、ということもできます。

注意点

  • プログラムによるアクセスがブロックされて、スクレイピングができないサイトもあります。
  • スクレイピングで取得した情報を利用・公開する時には著作権等に注意する必要があります。
  • import.io無料版では、情報取得の回数が1月500回までに制限されています。

他の活用方法

今回は「外務省のプレスリリースを取得する」という例を実行しましたが、他にも次のような活用方法が考えられます。
  • オンライン書店であるキーワードに関する書籍の一覧を取得する。
  • ニュースサイトで毎日ニュースの一覧を取得する。
  • 求人情報を定期的に収集する。
  • あるページのサムネイル画像だけを取得する(アイドルのファンなんかは活用できそう・・・)。
単にニュースをチェックするだけなら、ページをお気に入りにいれて見るか、RSSフィードなどを活用すればよいです。 ただ、定期的に大量の情報を忘れずに取得したい、CSVデータにして分析したい、というような場合には、こういったスクレイピングツールを活用すると、収集が捗るでしょう。

今すぐに使わなくても、スクレイピングというキーワードは覚えておいて損はないです。
import.io以外のスクレイピングサービスについては、こちらの記事を参照してください。
誰でも簡単!Webページ情報を自動でデータ化できるスクレイピングツール5選