「2018年卒の就職活動も終盤になってきた」ーなんていう表現は、極めて日本的なものでしょう。2018年春に卒業する学生は、おおよそ2017年の3月から会社説明会へ参加して志望する企業へエントリーし、6月ころから選考が始まり、8月、9月には内定を得て、進路を決める。10月には内定式、2018年4月には入社・・・これが、日本的就職活動の模範的なスケジュールとなっています。
徹底解説! 2018卒 就活スケジュール - 就活支援 - マイナビ2018
こうした就職活動は、日本型新卒一括採用の特徴(大概において「弊害」)として語られることが多くあります。
本書、『お祈りメール来た、日本死ね ー「日本型新卒一括採用」を考える』は、その日本の大卒者の就職活動と日本型新卒一括採用の「光と陰」を取り扱った新書です。
タイトルにある通り、2016年にネットの書き込みから話題となった「保育園落ちた、日本死ね」をもじっています。文体はあえて軽く書かれているのだと思いますが、扱っている内容は至って真面目です。
内容を、かいつまんでお話します。
就活の悩みは戦前からの100年論争
「就活」に関しては、様々な問題がメディアでクローズアップされています。非個性的なリクルートスーツ、画一的な面接ノウハウ、既卒者の不利な扱い、圧迫面接、就活による学業への影響・・・等々。これだけの問題が報じられていることから、就活問題というのは最近の現代的な問題のように感じられますが、歴史をひもとくと100年近く前、戦前からも続く、歴史の長い問題なのです。
それが、冒頭の第1章から解説されています。
特に問題となってきたのが「就活時期」の問題で、1928年にはじめての「就職協定」が当時の大手企業によって作られて以後、景気状況によって破られたり、ころころと時期が変わったりを繰り返して今に至っています(p.27参照)。
かつては、大学進学率は今ほど高くなかったので、大卒者の就活というのはごく限られた人の問題だったのでしょう。しかし、大学進学率が50%を超えた今、就活は多くの人が直面する問題となっています。また、グローバル化が進む中で、企業経営の観点からも新卒一括採用が見直されつつあります。そのためメディアでも大きく取り上げられ、「現代特有の」問題というように認識されているのだと思われます。
欧米型採用の闇
タイトルから想像すると、本書は日本型一括採用とそれに合わせた就活を批判する内容かと考えがちですが、それは違います。欧米型採用の光と闇、特に闇の部分を紹介し、その上で日本型採用と比較しています。
欧米では日本のような新卒一括採用ではなく、在学中から長期インターンシップなどに取り組み、卒業後も期限付きのポジションなどで実務経験を積んだ上で採用されるというのが大半です。
この形式だと、新卒も既卒も関係なく公平に実力で採用される、採用されるために高いモチベーションで専門性を身につけられそうだ、企業にとっても即戦力を採用できる・・・といったメリットが思い浮かびます。
では欧米型採用の闇とは何なのでしょうか。
一例として紹介されているのが、インターンシップが「雇用の調整弁」として、つまり格安の労働力として使われているという点です。
本書で紹介されているのはフランスの例。一部のエリートにはそれなりの給料が支払われるようですが、ノンエリートがインターンシップ(実習期間)で手にできる給料は、なんと最低賃金の3分の1程度。日本円でいうと月5万円程度だそうです。
欧米では解雇がしやすい、というイメージがありますが、実際のところは日本以上に解雇規制が厳しい所もあります。なので、格安で短期間雇えるインターン生は、企業にとって都合の良い存在なのです。
著者は次のように言い切っています。
そう、欧州のインターンシップは、企業にとって使い勝手の良い雇用調整弁という側面がある。だから企業はインターン生を重用する。あちらの国でも、決して社会貢献や企業の社会的責任のみで受け入れているわけではない。(p.127)それでも大半はインターンで実務経験を積まないと望むような職につけないため、みなインターンシップに取り組むわけです。なお日本によくあるような職業体験的なインターンシップではなく、普通の業務に取り組みます。
まとめ:日本型就活はこれでいいの・・・か?
欧米的な採用環境で、厳しい条件でインターンシップをし、必死で実務経験を積んで職につく・・・そしてその先も、エリート候補以外は一定以上には出世できず、より良い条件の仕事に就くためには転職や学び直しを繰り返す。そういった環境と、日本型就活を経て新卒入社し、企業研修で育ててもらい、熾烈ではあるが誰もにチャンスがある(ように見える)出世レースに参加するか。
そのどちらが良い・悪いというのは著者は述べていません。2つを比較した上で、日本型新卒一括採用と日本型就活に対する改善策を提案しています(その内容は本書内でお読みください)。
私も、どちらが良い悪いという問題ではないと思います。それに、就活を経て企業就職する以外に、公務員、教員、起業、家業を継ぐ・・・など、キャリアの選択は色々あります。
1つ言いたいのは、日本型就活のメリットは活用できる余地がある ということです。
何の実務経験もない学生を、専門性もさほど問われずに正社員として採用してもらえるだなんて、ノンエリートの欧米の学生からみたら垂涎ものでしょう。
実際に私も、人文系が専門だったにも関わらず、新卒エンジニアとして採用してもらえました。欧米であれば、履歴書だけで完全に門前払いだったでしょう。
日本型就活は確かにプレッシャーも大きく大変だと思いますが、その幸運な環境を活かしたい人にとっては絶好の機会ではあるので、自分自身のために 「就活とやらを大いに利用してやるぞ」ぐらいの大きな気持ちで望んでもよいのではないでしょうか。
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