画像は21世紀型スキルとは関係ありません。 |
「21世紀型スキル」という用語が、ここ数年、教育関係の中でもバズワード(流行語)のようにして広まっています。これについて、思ったことをまとめてみました。タイトルの通り「21世紀型スキルはしんどい」のでは、という話です。
「21世紀型スキル」とは
21世紀型スキルとは、「21世紀を生き抜くために育むべき能力」のことです。21世紀型スキルには唯一絶対の定義があるわけではなく、様々な団体が定義付けを試みています。
よく引用されるのは、国際団体ACT21sが定義している「21世紀型スキル」です。
思考の方法(上記訳は、人工知能に負けない子ども、どう教育するかより。)
仕事の方法
- 創造力とイノベーション
- 批判的思考、問題解決、意思決定
- 学びの学習、メタ認知
仕事のツール
- 情報リテラシー
- ICTリテラシー
社会生活
- コミュニケーション
- コラボレーション(チームワーク)
- 地域とグローバルのよい市民であること
- 人生のキャリア発達
- 個人の責任と社会的責任
(ところでこれを提唱したACT21sのウェブサイトは閲覧できない状態になっていますし、2015年ころ以降の情報がネット上では見当たりません。解散したのでしょうか。)
また、OECDは、非常に分厚い報告書で「21世紀に必要なスキル」を詳述しています。
Chapter 1: The skills needed for the 21st century
アメリカのウォルト・ディズニー社やフォード社がメンバーとなっているP21(Pertnership for 21st century learning)という組織にも定義付けがあります。
FRAMEWORK FOR 21ST CENTURY LEARNING
おおよそどこの団体も、ACT21sと同様のことを提唱しています。つまり、単純に教科の知識を得るだけでなく、個人の高度な思考能力(批判的思考能力など)、さらに価値観の異なる人々と協働し、情報技術を活用して、イノベーションを起こす能力・・・などが求められているのです。
これらのスキルが「21世紀型」と言われているように、20世紀を生きるためには、多くの人にとって必ずしも必要でない能力でした。20世紀は、言わば「やる気・元気・思いやり」とテストでそこそこいい点数を取る能力があれば、なんとか生きてこれた時代でした。学校教育もそのようにデザインされていました。
しかし21世紀は違う、と。グローバル化の進展により、様々な思想・背景の人たちと仕事をしなければいけない。さらに技術革新で多くの仕事はAI(人工知能)、ロボットに置き換えられてしまう・・・。
そんな時代を生き抜くためには、上述のような「21世紀型スキル」が必要だと言うのです。
21世紀型スキルはしんどくないか?ー「自己再生力」の必要性
教育に携わっている人間が言っていいことか分かりませんが、正直、「21世紀型スキルを身につけるってしんどくないか?」と思ってしまいます。求められる要素が非常に多く、レベルが高いです。「22世紀スキル」は、いったいどんな風になってしまうのでしょうか。気になります。教える方もしんどいです。というよりも、教える側が21世紀型スキルなんて十分に身につけていない場合が多いのです。しかし、現代〜何年か先の社会が「21世紀型スキル」を求めているというのも現実です。そして、21世紀型スキル(のようなもの)が求められる社会というのは、やはりしんどい社会になりそうです。
そんな時に、どう対処したらいいのでしょうか。
示唆的なのは、リンダ・グラットン氏が未来の働き方について書いた著書『WORK SHIFT』の中で提唱している「自己再生のコミュニティ」の必要性です。
未来の働き方は、今以上に時間の使い方が細切れとなり、バーチャルな空間での仕事が多くを占めるようになる。そうなると、必然的に孤独感と強いストレスが蓄積されていきます。グラットンは、そのことを前提として、バーチャルなコミュニティに頼らない、リアルな場で幸福感を高めてくれるつながりが必要だ、ということを主張しています。
自己再生のコミュニティのメンバーとは、現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったりして、くつろいで時間を過ごす。生活の質を高め、心の幸福を感じるために、このような人間関係が重要になる。リンダ・グラットン著(池村千秋 ・訳)『WORK SHIFT』p.309-p.310
一見、「友達は大切だ」「家族は大切だ」というような、当たり前のことのように感じます。しかし、その当たり前のことが、未来の働き方をしていると、どんどん自明のことではなくなっていくのです。グラットンは次のように書いています。
重要なのは、自分で選択して、そういう人間関係を築くことだ。この種の温かい人間関係が当たり前のように手に入る時代が終わり、意識的に自己再生のコミュニティを築く必要が増すのだ。前掲書 p.310
話を21世紀型スキルへ戻すと、21世紀型スキルが求められるような職業というのは、『WORK SHIFT』に書かれているような、高い能力が求められ、時間に追われ、放っておくと心身を消耗するような仕事のはずです。
それを前提として、グラットンの言うような「自己再生のコミュニティ」、あるいは個人としての「自己再生力」の必要性についても、21世紀型スキルとの関連で教えるべきだと思います。
具体的にどう教えるべきかというのは別の機会に考えたいのですが、ともかく、一方的に能力の伸長を求めるばかりではしんどいので、そのしんどさを乗り越えるための方策も、今後の学校教育と家庭教育の中に意識的に取り入れていかなければならないはずです。
まとめ
21世紀型スキルの概念と、それに関連して自己再生力の必要性について書きました。グローバル人材育成系のプログラムに多少関わっている身としては、21世紀型スキルについて事例など調べて掘り下げるとともに、自己再生というキーワードも考えていきたいと思います。
2 コメント
「現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったり」まさにこれが封じられてしまうことになるとは全く予想もしていませんでした。
もはや孤独とストレスから逃れる道はないのかと思うと絶望的な気持ちになります。
コメントありがとうございました。
「WORK SHIFT」著者が言っていた未来の働き方が、一挙にやってきて、さらに「自己再生のコミュニティ」ともつながりづらい、作りづらい状況になってしまいましたね。
国や地域、属するコミュニティにより違いますが、完全に封じられている訳ではないので、規制や同調圧力と折合いつけながら「うまくやっていく」ほかないのかな、と思います。
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