2017年5月23日火曜日

野口悠紀雄『ブロックチェーン革命』:仮想通貨技術は世界を変えるか

「ブロックチェーン」は、ビットコインなどの仮想通貨に用いられている技術のことです。このブロックチェーン技術を用いた社会変革の可能性をまとめたのが、野口悠紀雄『ブロックチェーン革命ー分散自立型社会の出現』です。

ブロックチェーンとは何か

ブロックチェーンは、仮想通貨に用いられている技術です。

仮想通貨というと、電子マネーの進化版のように捉えられがちですが、根本的に仕組みや理念が異なるものです。確かに、表面的に見える挙動は両者とも似通っています。両者とも 実物の紙幣や貨幣ではなく、デジタルの数字で商品を買う事ができます。

では、違いは何でしょうか。

電子マネー(SuicaやNanaco、Waonなど)は、日本円を入金して、それと等価のポイントを得る事ができます。客がそのポイントで商品を購入すると、代金を受け取った方もまた日本円に交換して売り上げとします。一方のビットコインは、ビットコインそのものが既に価値を持っているので、ビットコインで支払ったら、それがそのまま売り上げとなります。得たビットコインを他の人に渡すこともできますし、商品を買う事もできます。電子マネーは日本円などの通貨と交換してはじめて価値を持ちますが、ビットコインはそれ自身が価値を持ち、日本円やドルのように通貨としての役割を果たしているのです。

日本円やドルは、単なる紙切れではありますが、政府という信頼できる機関が保証してくれているのでみんなが使っています。一方のビットコインは、誰が作ったかも分からない電子データです。なぜそんなモノが価値を持つのか。その裏にある技術が「ブロックチェーン」です。

本書では、ブロックチェーンについて次のような説明がされています。
ブロックチェーンとは、公開分散台帳だ。誰もが参加できるコンピューターの集まり(P2P)によって運営され、公開される。データの改竄ができないように、PoWという仕組みが導入される。これにより、組織の信頼に頼らずに、信頼できる事業を運営できる。
これだけではなんの事だか分からないので、本書では、続けてさらに丁寧な説明がされています。

私なりの理解で、噛み砕いて説明してみます。

日本国内で日本円が通貨として使えるのは、皆が通貨として信頼しているからです。 商品の売り買いやお金の貸し借りといった取引は、商店、企業、銀行、日銀で記録されています。多少の抜け道はあるにしろ、企業などは取引の成果(利益)を国に報告して税金を納めています。その税金によって政府は公共事業を行っています。銀行は銀行間でのお金のやりとりを記録しています。このようにちゃんと取引が記録されていることが信頼の源泉となって、お金は天下で回っていきます。

一方のビットコイン。ビットコインは、サトシ・ナカモトという正体不明の人物が2009年に発表した論文をもとにして作られた通貨とされています。ビットコインはコンピューターを使った採掘(マイニング)により生み出され、それが流通しています。採掘量には上限があるので、金(きん)のようなものです。ただ、これだけでは怪しすぎて通貨として信頼できませんよね。そこで登場するのがブロックチェーン技術です。

ブロックチェーンは、その名の通り、ブロックの鎖(連なり)です。電子的なブロックがあり、そのブロックには取引の情報を記録できます。記録されるといっても、情報は暗号化されているので個人情報がそのまま全世界へ公開されることはありません(これが「暗号通貨」とも呼ばれる理由)。それで、このブロックが取引のたびに鎖のように連なっていきます。そのため「ブロックチェーン」と言われるのです。ビットコインの場合、取引の記録はどこか1つのサーバーに集約されるのではなく、P2Pと呼ばれる、誰もが参加できるコンピューターの集まりによって行われます。政府や中央銀行といった信頼できる管理者がいない代わりに、「みんな」がお互いに信頼しあって台帳を共同でつけていく。これが、野口氏の言う「公開分散台帳」のイメージです。

どのような社会変革が可能なのか

では、このブロックチェーン技術を使い、どのような社会変革が可能となるのでしょう。

一般的に知られているのが、決済・送金の大幅な効率化・低コスト化です。例えば日本のA銀行から他国のB銀行に送金する場合、複数の銀行を経由したりするため数日の時間がかかり、高額な手数料が必要です。ブロックチェーン技術を使う仮想通貨であれば、数秒で送金することが可能となるのです。もちろんコストも格段に下がります。

しかし、これは本書が力点をおいている事ではありません。送金を効率化するだけなら現状の改善であって、革命とまでは言えないでしょう。主眼は、書名にある通り「分散自立型社会の出現」にあります。

ブロックチェーンに記録できるのは、商品との交換に必要な「お金」だけではありません。様々な事実をチェーンの上に記録する事ができます。

応用例として紹介されているのが、オートバックスの実験です。カー用品販売のオートバックス社は、Ethereumというブロックチェーン技術を使い、カー用品を個人間で売買できる仕組みの構築を行いました。決済手段に仮想通貨を取り入れたのではありません。ブロックチェーンに記録したのは売買の履歴です。これにより、個人間の取引であってもちゃんとした商品であるという担保ができ、かつ「高性能、大容量なデータベースの構築・保守運用が不要なため、5 年間のシステム TCO(Total Cost of Ownership)で、約 10%のコスト削減効果」が見られたとのことです。

参考:http://www.baycurrent.co.jp/news/pdf/NewsRelease_20161115.pdf

他にも、行政手続きや学習、医療データの記録に活用するアイデアも紹介されています。
さらに踏み込んだ事が、第9章で紹介されている「DAO」です。DAOはDecentralized Autonomous Organizationの略で、日本語に訳すとしたら「分散型自立組織」となります。

これまで、なんらかの組織には必ず経営者のようなリーダーが不可欠でした。UberやAirbnb、メルカリのように個人と個人が直接繋がれるようになったとはいえ、まだなお仲介し管理するための企業が不可欠です。それが、ブロックチェーンを活用すれば、管理者がいなくてもコミュニティに参加する個人同士が直接取引をできるようになる、というのです(もちろん、取引のための場や技術は誰かが開発しなければいけないが)。本書では、クラウドソーシングのColony、シェアリングサービスのSlock.itなどが紹介されています。

最後に

『ブロックチェーン革命』は、注目を集める「ブロックチェーン」の概要をつかむには良い一冊だと思います。ただ、これまで仮想通貨やフィンテックなどに全く興味を持っていなかった人が読むと、途中でつまずくかもしれません。仮想通貨関係のウェブ記事やブログをざっと読んだり、また実際に少し仮想通貨を買ってみると、実感を持って読めると思います。野口氏の前著『仮想通貨革命ービットコインは始まりにすぎない』もおすすめです。

なおブロックチェーンの技術ではなく思想的部分に興味を抱いた方は、『現代思想』2月号がブロックチェーンを特集しているので読んでみるとよいでしょう。

個人的には、コーカサスの国ジョージアがブロックチェーンの活用を目指していることに興味を持っています(『ブロックチェーン革命』にも少しだけ紹介されていました)。

Bitfury, Republic of Georgia Push Ahead With Blockchain Land-Titling Project

土地の登記に活用する、とうことかな。日本のような図体の大きな国より、小国の方がこういう技術をいち早く取り入れるのでしょう。そのうち調査してみます。

2017年5月5日金曜日

最新 世界情勢地図:100枚の地図で理解する世界のいま



本屋で思わず手にとって衝動買いしてしまった一冊。

パスカル・ボニファス (著), ユベール・ヴェドリーヌ (著), 佐藤 絵里 (翻訳)『増補改訂版 最新 世界情勢地図』ディスカヴァー・トゥエンティワン,2016

本書では、およそ100枚の世界地図とそのテキストによって、世界情勢を解説しています。

どんな地図かというと、ヨーロッパが世界中に植民地を持っていた時代、世界の環境問題、人口分布、特定の国や集団から見た世界など、様々なテーマに基づき、カラフルで分かりやすく示された地図です。Amazonの商品ページにサンプルがあるので、そちらを見るのが早いでしょう。


この本の優れたところは、これまで気に留めていなかった世界の事実に、ビジュアルによって気づかせてくれるところです。

中でも面白いのは、「◯◯から見た世界」の章。米国、ヨーロッパの主要各国、トルコ、ロシア、中国、日本などの国々、あるいは「アラブ世界」、「イスラム主義者」など特定の集団の視点から世界情勢を見る、という試みです。

例えば、米国であれば、米国がどんな国と軍事的、経済的な同盟関係にあり、どんな国を警戒しているのかが一枚の世界地図でパッと分かるようになっています。これが「ロシアから見た世界」の場合、ロシア帝国時代の領土拡大の過程の地図が入ります。このように、国によって取り上げられる話題が異なります。各国はそれぞれの課題を抱えているからです。「日本から見た世界」は、中国などと比べると大分あっさりとしています(見れば分かります)。日本ってあんまり注目されてないんですかね。

なお国として取り上げられているのは主要な国のみで、全ての国の項目はありません。アフリカ諸国の中では、南アフリカとセネガルだけが取り上げられていました。南アフリカはいいとして、なぜセネガルなんだろう。国の規模や影響力からして今ならナイジェリアやエジプトの方がふさわしいのではと思いますが。著者がフランス人ということが関係しているのかもしれません。

このような多少の偏りはあるにせよ、カラフルな地図を眺めているだけでも楽しいです。「あ、ここの国々はこんな共同体作ってたんだ!」とか、「この地域ってこんな紛争があったのか」とか気づくことができます。

気づきを得たその後は、本文のテキストを読むと理解が進みます。しかしテキストは1つの項目につき1ページ。それほど深堀できている訳ではありません。あくまでテキストは参考程度で、気になった問題はネットや他の本で調べるなりしましょう。

気づきのきっかけとしては、素晴らしく楽しい一冊だと思います。

(統計データについて気になったら、公開データを調べてみてください。参考記事:Google Public Dataを使ってグラフで遊ぼう

2017年4月25日火曜日

オルハン・パムク『僕の違和感』:現代トルコの半世紀を追体験する


「ロシア文学が好き」、「フランス文学が好き」という人は容易く見つかるが、「トルコ文学が好き」という人はあまり多くないでしょう。

今回紹介するのは、現代トルコで最も有名な作家オルハン・パムクの『僕の違和感』(2016)です。

オルハン・パムクとは

オルハン・パムクは、1952年トルコのイスタンブール生まれ。イスタンブール工科大学で建築を学び、イスタンブール大学でジャーナリズムの学位を取得。その後、コロンビア大学客員研究員としてアメリカに滞在。作家デビューは1982年の『ジェヴデット氏と息子たち』(オルハン・ケマル小説賞受賞)。その後も数々の 文学賞を受賞。2006年にはノーベル文学賞を受賞。代表作は『わたしの名は赤』、『雪』、『無垢の博物館』 など。

パムク氏の経歴は、公式サイト(英語)を見るのが一番でしょう。今の時代、小説家も自分のウェブサイトを持っているんですね。
日本語の場合は、Wikipedia、藤原書店の紹介が参考になります。
ノーベル賞受賞時に一気に知名度が高まりましたが、それから数年が経ち、日本での知名度は低くなっていると思います。ただ執筆意欲は旺盛で、2016年には最新作"Hatıraların Masumiyeti"(英題:The Red-Haired Woman)を刊行しました。

パムクは、トルコの特にイスタンブールを舞台とした作品を多く描いており、オスマン帝国時代〜現代まで、異なる時代のイスタンブールを登場させています。

2016年に和訳が刊行された『僕の違和感』も、イスタンブールを舞台にした作品です。それでは、作品について紹介します。

『僕の違和感』あらすじ

本書は上下巻の長編小説で、1950年代から2012年までのおよそ半世紀の間の、主人公メヴルト・カラタシュとその家族、親戚、友人たちの半生を描いた物語です。
主人公メヴルト・カラタシュは、12歳で故郷の村からイスタンブールへ移り住み、父と共にトルコの伝統飲料”ボザ”を売り歩くようになる。大都会の生活に馴染む中、同じく村から出てきたいとこの結婚披露宴で、美しい少女に一目惚れする。その後、熱烈な恋文を送り続け、ついには駆け落ちを実行するーー。
物語冒頭は、この駆け落ちの場面から始まります。駆け落ち自体は成功しましたが、その後とんでもない事実にメヴルトは気づきます。この駆け落ちした相手が、披露宴で一目惚れした少女ではなく、その姉だったのです。しかしメヴルトは、それに気づきながらも、一目惚れした少女の姉”ライハ”と、苦労しながらも幸せな家庭を築いていきます。

物語はその後、メヴルトの子供時代に戻り、イスタンブールへの移住、学校生活、ボザ売りの仕事、ライハとの駆け落ち・結婚、出産・・・と時代は冒頭に戻り、さらに先へと進んでいきます。その中で、メヴルトとメヴルトの周囲では様々な出来事が起こります。クルド人の親友フェルハトとの出会い、徴兵、仕事の失敗、住民同士の抗争・・・等々。こういったそれぞれの物語が、相互に絡まりながら、まるで舞台脚本のように様々な登場人物の口から語られていく形式になっています。

続いて感想を書きますが、先入観なく本作を読みたい場合はここで止めて、本を入手してください。


感想

圧巻、の一言です。主人公はごく平凡な、心優しい青年に過ぎません。何ら特別な存在ではなく、その時代に田舎から大都会へ出てきた何百万というトルコ人青年の一人です。大きな陰謀に巻き込まれるわけでもありません。確かに駆け落ちは劇的のように感じますが、許され難いものの実はよくある手段であり、主人公メヴルトが最初に恋した相手も別の男性と駆け落ちをしています。主人公以外の登場人物もそれぞれ、ごくありふれた人々です。それにも関わらず、緻密な構成と描写により、物語としても飽きることなく、トルコの半世紀を生きたそれぞれの人物の息遣いが活き活きと感じられます。

何よりも素晴らしいのは、イスタンブールという都市の描写です。これまでに幾度となくイスタンブールを描いてきた作家だけあって、イスタンブールの半世紀の劇的な変化が、主人公メヴルトの視点から丁寧に描かれています。メヴルトは伝統飲料”ボザ”を売るために、イスタンブールの路地を日々歩き続けます。路地から見える、変わり続ける都市の風景を、時に喜び、時に寂しく思うメヴルト。私はイスタンブールの空港にしか行ったことがありませんが、本書を読み、イスタンブールが何年か暮らした街のように郷愁を感じられるようになりました。

また、イスタンブールだけではなく、トルコの半世紀を追体験できるといってもよいでしょう。周知の通り、現代トルコはケマル・アタチュルクが打ち建てた世俗主義の国家です。しかし最近のトルコを見てわかる通り、イスラム教はトルコ社会と不可分のもので、世俗主義と信仰心の間で揺れ動くメヴルトや社会の様子も描かれています。世俗主義に加えて社会主義が一部の支持を集めた時代もあり、作中の人物も関わりを持ちます。クルド人というキーワードもよく出ます。そして後半では、資本主義国家として急成長したトルコ社会も描かれます。こういった変化が、歴史として解説されるのではなく、登場人物の口から語られるのです。メヴルトは何かひとつの思想の熱心な信奉者ではなく、どちらかというと冷めた視点で、社会の変化と向き合っています。

トルコとイスタンブールの半世紀の描写、というのは本作の大きな魅力であることは確かです。それと同時に、決してこれはトルコ土着の文学ではなく、それぞれの人生を歩む全ての人に向けた文学だと、思います。私は、最後の一文でそのことを感じました。

まとめ

文学作品の評価が定まるまでは時間がかかりますが、オルハン・パムク『僕の違和感』は、間違いなく名作の一つとなると思います。日本ではあまり話題にされない海外文学の中の、さらにマイナーなトルコ文学で、この作品を知る人が少ないことが残念です。宮下遼さんの日本語訳は読みやすく、登場人物の相関図も載っているので、海外文学が苦手でも抵抗なく読めると思います。

そして本書を読んでパムクに興味を持ったら、他の作品も読んでみると良いでしょう。主な作品には日本語訳があります。



また、現代トルコの歴史に興味を持ったら、最近刊行された新書『トルコ現代史』に目を通してみましょう。

パムク作品については、また取り上げたいと思います。

2017年3月28日火曜日

「21世紀型スキル」はしんどい

画像は21世紀型スキルとは関係ありません。

「21世紀型スキル」という用語が、ここ数年、教育関係の中でもバズワード(流行語)のようにして広まっています。これについて、思ったことをまとめてみました。タイトルの通り「21世紀型スキルはしんどい」のでは、という話です。

「21世紀型スキル」とは

21世紀型スキルとは、「21世紀を生き抜くために育むべき能力」のことです。
21世紀型スキルには唯一絶対の定義があるわけではなく、様々な団体が定義付けを試みています。

よく引用されるのは、国際団体ACT21sが定義している「21世紀型スキル」です。
思考の方法
  • 創造力とイノベーション
  • 批判的思考、問題解決、意思決定
  • 学びの学習、メタ認知
仕事の方法
  • 情報リテラシー
  • ICTリテラシー
仕事のツール
  • コミュニケーション
  • コラボレーション(チームワーク)
社会生活
  • 地域とグローバルのよい市民であること
  • 人生のキャリア発達
  • 個人の責任と社会的責任
(上記訳は、人工知能に負けない子ども、どう教育するかより。)
(ところでこれを提唱したACT21sのウェブサイトは閲覧できない状態になっていますし、2015年ころ以降の情報がネット上では見当たりません。解散したのでしょうか。)
また、OECDは、非常に分厚い報告書で「21世紀に必要なスキル」を詳述しています。

Chapter 1: The skills needed for the 21st century

アメリカのウォルト・ディズニー社やフォード社がメンバーとなっているP21(Pertnership for 21st century learning)という組織にも定義付けがあります。

FRAMEWORK FOR 21ST CENTURY LEARNING

おおよそどこの団体も、ACT21sと同様のことを提唱しています。つまり、単純に教科の知識を得るだけでなく、個人の高度な思考能力(批判的思考能力など)、さらに価値観の異なる人々と協働し、情報技術を活用して、イノベーションを起こす能力・・・などが求められているのです。

これらのスキルが「21世紀型」と言われているように、20世紀を生きるためには、多くの人にとって必ずしも必要でない能力でした。20世紀は、言わば「やる気・元気・思いやり」とテストでそこそこいい点数を取る能力があれば、なんとか生きてこれた時代でした。学校教育もそのようにデザインされていました。

しかし21世紀は違う、と。グローバル化の進展により、様々な思想・背景の人たちと仕事をしなければいけない。さらに技術革新で多くの仕事はAI(人工知能)、ロボットに置き換えられてしまう・・・。

そんな時代を生き抜くためには、上述のような「21世紀型スキル」が必要だと言うのです。

21世紀型スキルはしんどくないか?ー「自己再生力」の必要性

教育に携わっている人間が言っていいことか分かりませんが、正直、「21世紀型スキルを身につけるってしんどくないか?」と思ってしまいます。求められる要素が非常に多く、レベルが高いです。「22世紀スキル」は、いったいどんな風になってしまうのでしょうか。気になります。教える方もしんどいです。というよりも、教える側が21世紀型スキルなんて十分に身につけていない場合が多いのです。

しかし、現代〜何年か先の社会が「21世紀型スキル」を求めているというのも現実です。そして、21世紀型スキル(のようなもの)が求められる社会というのは、やはりしんどい社会になりそうです。

そんな時に、どう対処したらいいのでしょうか。

示唆的なのは、リンダ・グラットン氏が未来の働き方について書いた著書『WORK SHIFT』の中で提唱している「自己再生のコミュニティ」の必要性です。


未来の働き方は、今以上に時間の使い方が細切れとなり、バーチャルな空間での仕事が多くを占めるようになる。そうなると、必然的に孤独感と強いストレスが蓄積されていきます。グラットンは、そのことを前提として、バーチャルなコミュニティに頼らない、リアルな場で幸福感を高めてくれるつながりが必要だ、ということを主張しています。
自己再生のコミュニティのメンバーとは、現実の世界で頻繁に会い、一緒に食事をしたり、冗談を言って笑い合ったり、プライベートなことを語り合ったりして、くつろいで時間を過ごす。生活の質を高め、心の幸福を感じるために、このような人間関係が重要になる。
リンダ・グラットン著(池村千秋 ・訳)『WORK SHIFT』p.309-p.310

一見、「友達は大切だ」「家族は大切だ」というような、当たり前のことのように感じます。しかし、その当たり前のことが、未来の働き方をしていると、どんどん自明のことではなくなっていくのです。グラットンは次のように書いています。
重要なのは、自分で選択して、そういう人間関係を築くことだ。この種の温かい人間関係が当たり前のように手に入る時代が終わり、意識的に自己再生のコミュニティを築く必要が増すのだ。
前掲書 p.310

話を21世紀型スキルへ戻すと、21世紀型スキルが求められるような職業というのは、『WORK SHIFT』に書かれているような、高い能力が求められ、時間に追われ、放っておくと心身を消耗するような仕事のはずです。

それを前提として、グラットンの言うような「自己再生のコミュニティ」、あるいは個人としての「自己再生力」の必要性についても、21世紀型スキルとの関連で教えるべきだと思います。

具体的にどう教えるべきかというのは別の機会に考えたいのですが、ともかく、一方的に能力の伸長を求めるばかりではしんどいので、そのしんどさを乗り越えるための方策も、今後の学校教育と家庭教育の中に意識的に取り入れていかなければならないはずです。

まとめ

21世紀型スキルの概念と、それに関連して自己再生力の必要性について書きました。

グローバル人材育成系のプログラムに多少関わっている身としては、21世紀型スキルについて事例など調べて掘り下げるとともに、自己再生というキーワードも考えていきたいと思います。

2017年3月23日木曜日

アゼルバイジャンについて知るために読んだ方がよさそうな本



日本ではあまり知名度の高くない、アゼルバイジャンという国について知ることができる本をまとめました。

私自身は、仕事で二度、アゼルバイジャンへ行っています。テレビ朝日「世界の街道をゆく」で特集が組まれていますが、非常に奥が深い国です。まず、こちらに紹介する本を読んで、基礎知識をつけましょう。

全般

定番ではありますが、明石書店のシリーズで「コーカサスを知るための60章」という本があるので、目を通してみましょう。

アゼルバイジャンはコーカサス諸国(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)の1つとして数えられるため、この地域全般の事情を、まず抑えておくと、アゼルバイジャンへの理解も深まります。とくにアルメニアとの関係は必ず知っておいてください。これを知らずにアゼルバイジャンへ行くと、いろいろな意味で危険です。


政治・国際関係

アゼルバイジャンの政治・国際関係について知るためには、慶応大学の廣瀬陽子先生の著作を読んでみるとよいでしょう。

コーカサス全般や旧ソ連地域を扱った著作であっても、アゼルバイジャンに関する記述量が多い傾向にあります。かといってアゼルバイジャンびいきという訳でもなく、中立的な視点から書かれています。


経済・ビジネス

ビジネスに関しては、こちらの本を読むと事情が分かるでしょう。注意したいのは、この本が出版される少し前までは、石油価格が高値を維持しており、産油国であるアゼルバイジャンの経済も好調だったということです。その後、石油価格は大幅に下落し、アゼルバイジャン経済は苦境に立たされています。

しかし、だからといってアゼルバイジャン経済が崩壊した訳でもなく、まだまだポテンシャルは高いと思います。その一端を垣間見たい方にはおすすめの一冊です。

言語

アゼルバイジャンでは、アゼルバイジャン 語という言語が話されています。「アゼリ語」、「アゼリ・トルコ語」と言われる場合もありますが、現在の公式な呼び方は「アゼルバイジャン語」です。アゼルバイジャン語はトルコ語、カザフ語、ウズベク語などが含まれるテュルク系の言語の中でも、特にトルコ語と非常に近く、通訳なしでほとんどお互いに理解できます。そこで、かつては「トルコ語」と公式に呼ばれていた時期もありました。

そんなアゼルバイジャン語、日本でもいくつか教科書や辞典が出版されています。


また、言語政策に興味があれば、下記の論集を読むとよいでしょう。アゼルバイジャンの言語政策に関する論文が掲載されています。

岡洋樹編(2011)「歴史の再定義 : 旧ソ連圏アジア諸国における歴史認識と学術・教育」(東北アジア研究センター叢書:第45号)

まとめ

アゼルバイジャン人は長い間、トルコ民族とほぼ同じ民族として見られ、また彼ら自身でも「アゼルバイジャン人」としてのアイデンティティーが昔からあった訳ではありません。現在の形で「アゼルバイジャン人」のアイデンティティーが形成されたのは20世紀に入ってからです。

かと言ってトルコと全てが一体なのかというと、そういう訳でもありません。重層的に色々なものが重なって出来上がっている国です。決して「産油国で金満なトルコ人国家」ではありません。一度は現地へ行ってみることをオススメします。

追記: 「アゼルバイジャン人」というアイデンティティー形成について、新刊が出たようです。内容は少し難しそうですが、ぜひ読んでみましょう。

2017年3月16日木曜日

ITを使いこなすための心構え

「若者のパソコン離れが進んでいる」と言われている昨今ですが、何らかのデスクワークに少しでも関わる仕事であれば、パソコンやウェブサービスを使いこなすことは必須です。

このブログでITのことを色々と書いている通り、私はどちらかというと、パソコンを使うのが得意な方でした。中学生くらいの頃から、自宅で開業していた母に、パソコンの使い方を質問されたら答えて小遣いをもらう、ということもしていました。

いまでも、職場の方にソフトの使い方などを聞かれます。職場にこんなような便利屋さんがいればいいのですが、どこにでもいるとも限りませんし、分からない事を聞いてばかりでは全体の生産性が上がりません。

そこで、誰もがITを使いこなせるようになるためには、どんな意識付けやコツが必要なのか、3つのポイントを考えてみました。

1.「楽をしよう」と思うこと

まず、「楽をしよう」という意識が必要です。パソコンは道具です。道具は、人がより効率的に、楽に仕事をするために作られたものです。なので、目の前にあるパソコンが自分を苦しめるのではなくて、より楽ができると考えてみてください。そして、この考え方は重要です。プログラマーの「三大美徳」の1つは「怠惰」とも言われているぐらいです。

ただし、「すぐに楽をしよう」と思うのはやめてください。パソコンの操作方法を覚えるのには、最初は時間がかかります。別の記事で紹介したショートカットキーにしてもそうです。最初はショートカットを覚えるのに時間がかかります。しかし、ひとたび覚えてしまえば、ショートカットを使う前よりもより素早く操作ができ、長い目で考えるとより楽になるのです。

まるで蟻とキリギリスの話みたいですが、あとで楽できることを願って、最初の苦しみをなんとか乗り越えましょう。(「楽できる」の部分は、別の報酬に変えてもいいと思います。給料アップ、スキルアップ、楽しい、よりたくさん仕事ができる、などなど。)

2. Googleで調べる

ググレカスというネットスラングを聞いたことはあるでしょうか。「ググれ」というのは「Googleで調べろ」という意味で、大抵のことはGoogleで調べれば分かるのだから、いちいち質問してくるな、という意味あいで使われます。

確かにGoogle先生に聞けばだいたいのことは教えてくれますが、その答えに行き着くのに時間がかかり、面倒な時もあります。何ページも見ても、まったく理解できない場合もあるでしょう。そんな場合の対処法をいくつか挙げてみます。

動画を調べる

普通の検索だと、ほとんど文字での解説しか出てきません。これだと操作方法もよくわかりませんよね。そんな時は動画を調べます。

例えば、「Excel 集計」とGoogleの動画検索で調べると、youtubeなどの動画サイトや、Microsoftのヘルプページにアップロードされている解説動画が大量にヒットします。

Google動画検索の結果

OSやバージョン名を入れてしらべる

いくつか情報を読んでもうまくいかない場合は、OSやバージョン名といった細かいキーワードも入れて検索してみてください。WordやExcelは、バージョン(2011、2016など)によって画面や操作方法が違います。またWindowsとMacでも違いがあります。
検索キーワードには、できるだけ具体的なワードを含めましょう。

自分で調べるのは面倒で、ついできる人に聞きたくなるかもしれません。しかし、自分で調べるメリットもあります。第一に、自分でしらべれば自分ごととして、よく覚えられます。また、調べていく中で関係する情報にも自然と目がいき、どんどん知識は増えていくはずです。

3. 体系的に学ぶ

最後に。Googleの浸透により無視されがちなのですが、体系的に学ぶのが習得の近道なのは今も変わりません。

本屋で一冊、ExcelやWordの入門書を買ってみるのもいいでしょう。入門サイトや個人ブログをじっくりと読んでみるのもいいでしょう。

たとえ流し読みでも、体系的に学ぶことで、「このソフトでこんなこともできるのか!」と、気づきがたくさんあるはずです。「たかがExcel」とあなどってはいけません。枠線をつけるとか、合計を出すとか、それくらいは誰もが直感的にできてしまいますが、Excelは奥が深いのです・・・(私もよくわかりません)。

また、学ぶ時に、全てを覚える必要はありません。分からなければGoogleで調べればよいのです。ただ、調べる前に、そもそも「何ができるのか」だとか、調べるのに必要なキーワードくらいは覚えておいたほうがいいでしょう。

まとめ

ITを使いこなすための心構えを、自分なりにまとめてみました。

この3つのコツは、オフィスワークに必要なソフトを覚える時だけではなく、プログラミングでソフトを開発するなど、さらに発展的な事に取り組む際にも、重要になります。
少しでも意識が変わり、ITを使いこなす事によってオフィスの生産性が上がる事を願っています。

2017年2月14日火曜日

スクリーンショット(画面キャプチャ)の撮り方

スクリーンショットとは、パソコンやスマートフォンに表示されている画面の全体または一部を切り取って画像にして保存することです。最近では略して「スクショ」と言わています。また「スクリーンキャプチャ(キャプチャ)」とも言われます。

スクショをすれば、画面に表示されている情報をそのまま、メモ代わりに保存できて便利ですよね。

しかし、スマホでのスクショは分かるけどパソコンでのスクショの撮り方が分からない、という人がけっこういるようなので、まとめてみます。

ショートカットキーを使って撮る

Windows、Macとも、もとからショートカットキーでスクショを撮る機能が備わっています。特にMacのスクショ機能は非常に便利です。

Windowsの場合

キーボードの右端の方に「PrintScreen」または「PrtScreen」というキーがあるはずです。これを使います。機種によって設定が違ったりしますが、
  • Print Screenのみを押す
  • Fn + Print Screen を押す
このいずれかの操作で、現在の画面全体をクリップボードにコピーできます。これをペイントなどのソフトに貼り付け、画像として保存すればOKです。
現在アクティブな(=操作中の)ウィンドウの画像が欲しい場合、次のキーを押します。
  • Alt + Print Screen

Macの場合

次のショートカットキーでスクリーンショットを撮れます。
  • Command + Shift + 3 : 現在のスクリーン全部を撮る
  • Command + Shift + 4 : スクリーンの一部を四角形で切り取る
  • Command + Shift + 4 + スペース → ウィンドウをクリック : 選択したウィンドウを撮る
「カシャ」っと音が鳴って、画像が自動的にどこかに保存されます。デスクトップか「ピクチャ」フォルダにファイルがあるはずです。

ソフトを使って撮る

Windowsの場合、ショートカットキーではスクリーンショットを保存するのが面倒です。そこでソフトを使います。

Snipping Tool

最近のWindowsに標準装備されているソフトです。画面全体、現在アクティブなスクリーンのスクリーンショットが撮れるほか、スクリーンの一部を四角または自由な形で切り取ることができます。

四角形だけではなく自由な形で切り取れるのはいいですね。

ブラウザの機能を使って撮る

ウェブページのスクショを撮りたい時に使えるのが、ブラウザのスクショ機能です。これはデフォルトでは備わっていない場合が多く、新たに拡張機能としてブラウザにインストールする必要があります。ここでは、Chromeの場合を例に説明します。

Chromeウェブストアを開きます。「ストアを検索」にScreenshotと入力して検索します。

すると、スクリーンショットを撮るための拡張機能アプリがたくさん出てきます。この中で評価が良いもの、最近までアップデートされているものを選んでインストールしましょう。私はWebpage Screenshotを使っています。

インストールすると、ブラウザの右上にアイコンが表示されるようになります。表示されない場合はもう一度、設定>拡張機能を開き、機能を有効化しましょう。

スクリーンショットを撮りたいページを開いたら、拡張機能のアイコンをクリックします。
Chrome拡張機能を使っている様子。まさにこれがスクリーンショット。

あとはアプリによって挙動が違いますが、四角で切り取れたり、注釈を入れたり、ダウンロードできたりもします。Webpage Screenshotの場合はこんな画面です。

同じような拡張機能が、FirefoxやInternet Explorerなど他のブラウザでも利用できます。Chromeだと「拡張機能」ですが、他のブラウザだと「アドオン」などと言われます。

まとめ:スクリーンショットの使い道

スクリーンショットは画面に写ったものをそのまま保存できるので、便利です。私がよく使うのは、乗り換え案内や地図を保存しておきたい時などです。また、パソコンに何か問題が発生した時も、その画面をそのまま撮っておけば、詳しい人が問題を解決してくれるかもしれません。

最後に裏技的な使い方を紹介します。

PDFやパワーポイントファイルの一部を切り取って画像にしたい時も、スクリーンショットを使えば一発で画像化できます。画像の質はオリジナルより悪くなりますが、素早く画像を入手できます。

また、テキストをスクリーンショットで撮れば、140字の制限があるTwitterにそれ以上の文字数を投稿できます。写真SNSのinstagramにテキストを投稿することもできます。いろいろな使い方があるわけです。

二次利用は著作権等に留意する必要がありますが、個人 利用であれば気にせず、スクショをどんどん活用しましょう。