2017年11月28日火曜日

忘れられた「戦争」から100年:麻田雅文『シベリア出兵ー近代日本の忘れられた七年戦争』

2018年、日本が関係するとある「戦争」の開始からちょうど100年を迎えます。なぜカッコ書きの「戦争」か。その戦争は、公には「戦争」とは呼ばれませんでした。いまでも戦争とは呼ばれません。にも関わらず、異国の地で日本側だけでも3,000人を超える戦病死者を出し、かつソヴィエト連邦の成立という世界史の分岐点となったとも言える戦いだったのです。

そして今では、その「戦争」はそれほど顧みられることもないーそれが本書でまとめられている「シベリア出兵」です。


シベリア出兵とは

かつて存在した「極東共和国」の国旗

多くの人にとって「シベリア出兵」は、世界史、あるいは日本史の授業で聞いたことがある、くらいだと思います。有名な「シベリア抑留」とは全然別の話です。

本書では、シベリア出兵は次のように定義されています。
シベリア出兵は、ロシア革命の混乱に乗じ、1918(大正7)年に日本海に面したロシアの港町、ウラジオストクに日本を含む各国の軍隊が上陸して始まった。ウラジオストクからは、日本軍は22年に撤兵する。だが本書は、25年にサハリン島(樺太)の北部から日本軍が撤退するまで、足かけ7年に及んだ長期戦と定義する。
この経過を、おおざっぱにまとめます。

ロシア革命は、1917年の2月革命、10月革命を通じて、最終的にソヴィエト政権が樹立された一連の事件のことです。ここからかつてのロシア帝国の領土内では内戦が発生します。ソヴィエト側の赤軍と、その他の反革命勢力が争いを始めます。

その時、世界は第一次世界大戦の最中。連合国(イギリス、フランス、ロシアなど)と同盟国(ドイツ、オーストリアなど)が戦っていたところ、ソヴィエト新政府はドイツと単独講和(ブレスト=リトフスク条約)を結び、戦争を終えてしまいました。
イギリス、フランスはこれをよしとせず、ソヴィエト政府を倒して東部戦線を復活させることを狙います。そして日本とアメリカにも、ロシア内戦に介入し、ソヴィエト政府打倒の手助けをしてもらおうと頼みます。

日米はしばらく出兵を渋ったものの、結局、ウラジオストク上陸を皮切りに出兵を決行します。その後、日本は他の各国と協力して反革命勢力を支援したり、パルチザンと戦ったりし、結局バイカル湖周辺の地域まで進出します。

内戦はソヴィエト側が優位となり勝負の行方が見えた頃、他の各国は撤兵しますが、日本はなかなか撤兵せず止まっていました。それも22年には撤兵。日本軍の撤兵に合わせて、それまで日本軍との対決を避けるために存在していた極東共和国はソヴィエト政府に吸収され、その年の12月にソ連の成立が宣言される。

ただし、日本人の民間人が大量に殺害された「尼港事件」を口実に占領していた北サハリンについては、ソヴィエト政府との交渉がまとまるまでは留まり続け、25年に撤兵しました。

これがシベリア出兵のあらましです。

繰り返される「大義なき戦争」「内戦介入」

シベリア出兵は、「大義なき戦争」と言われています。

シベリア出兵での「大義」は、「チェコ軍団(※)の救出」というものでした。その大義はいつの間にか忘れ去られ、日本は極東でロシアの持っていた資源や権益奪取に走ります。そうしているうちに、だらだらと戦費をたれ流し、人命も失いつつも、当時入れ替わりの激しかった内閣は撤退を決断できず、結局7年間も戦争を続けてしまいました。

※チェコ軍団:第一次世界大戦時に、オーストリア=ハンガリー帝国からの独立を目指して組織されたチェコ人・スロヴァキア人からなる戦闘部隊。アメリカ経由で欧州へ向かうためウラジオストックへ向かっていたが、途中で反乱を起こしてソヴィエト政府と対立、シベリアで孤立する。

「大義なき戦争」は、現代まで幾度も繰り返されています。イラク戦争では、大量破壊兵器を持つフセイン政権の打倒が大義でしたが、結局大量破壊兵器は見つからず、大義はうやむやになっています。大義があれば戦争していいというものじゃないですが。またシベリア出兵の「内戦介入」という構図も、シリア内戦に見られるように、現代までも繰り返されています。

まとめ:再び極東に夢を見るか

一応ロシア関係の仕事をしている私も、本書を読んではじめてシベリア出兵の全体像をつかむことができました。

日本では、日本とロシアの争いの歴史を見る時、日露戦争、第二次大戦末期のソ連による侵攻やシベリア抑留ばかりが語られがちですが、その間にシベリア出兵があり、双方ともに多くの人命が失われたことを忘れるべきではありません(ロシア側の死者は8万人とも言われています)。

ここ数年、日露関係はやや改善の方向に動いており、平和条約の締結や北方領土問題の前進にわずかな希望が見えています。また極東地域の開発に、日本も及び腰ながらも乗り出そうとしています。

この動きに関わる人間は、シベリア出兵の歴史を抑えておく必要が、あると思います。

2017年11月14日火曜日

Office365: 入力フォームのFormsからExcelファイルへ情報を送る方法は?


以前の記事Office365 Education の"Forms"を使ってみようで、Office365 Educationの入力フォーム作成機能「Forms」について紹介しました。今回は「Formsに入力された情報をリアルタイムでExcelオンラインファイルに反映させる方法」を紹介します。

※FormsはOffice365 Education以外でも利用できるようになったようです。ただし本記事は、Office365 Educationでの環境を基準に解説しているため、若干の仕様の違いがある可能性があります。

どういう機能か?

Googleが提供する同じようなサービス「Googleフォーム」を使ったことがある人は多いと思います。そこで、Googleフォームの同じ機能をまず簡単に紹介します。

Googleフォームでは、フォームを作ると「回答」タブが現れます。これをクリックし、スプレッドシートらしき緑のアイコン横のメニューボタンをクリックします。この中で、「回答先を選択する」をクリックし、スプレッドシートを作成(あるいは既存のファイルを選択)します。



すると、フォームで回答した内容は、リアルタイムにこのスプレッドシートに次々と追加されていきます。回答結果を他の人とも 共有したい時、リストをすぐ使いたい時など、非常に便利ですよね!


Office365での設定方法

では、Office365で同じことをやりたい場合、どうしたらよいのでしょうか。

現状では、Googleフォームと同様にFormsの画面からExcelを作成したり、選択したりすることはできないようです。Formsの「回答」タブに「Excelで開く」というボタンがありますが、これを押すとExcelファイルがダウンロードされるのみで、Excelオンラインのファイルは生成されません。


ではどのようにするかというと、まず最初に、データを入れるExcelファイルを作る必要があります。

Office365のトップ画面からExcelオンラインファイルを作成します。


そして、メニューの中に「Forms」というアイコンがあるので、これをクリックします。



いつものFormsの画面になるので、フォームを作成していきます。

再びExcelオンラインファイルを見ると、回答を入れる列が自動で作成されています。


フォームを試しに入力してみると・・・・


ちゃんと反映されています!

できればForms画面からもExcelオンラインファイルを生成できるようにしてほしいのですが、まあこの方法も特に難しくはないですね。

注意点

ここで注意点を1つ。

フォームを作成したあと、Excelのファイル名を変更したり、移動したりすることができません。こんな表示が出ます。


おそらく、Formsと自動連携しているため、ファイル名や場所を変更すると不都合が生じるのでしょう。ExcelとFormsを連携させたい時には、はじめからファイル名や場所をきちんと決めて作成する必要があります。

まとめ

以上、FormsからExcelオンラインへリアルタイムに情報を送る方法を紹介しました。Formsの進化は早く、Googleフォームを追い上げていると思います。

まだまだ、Googleの方が良いなあという点もあるので、今後の発展に期待しましょう!

2017年11月7日火曜日

Microsoft Teamsの研究 2:ファイル共有機能 アップロードしたファイルはどこへ?

MicrosoftのビジネスチャットツールTeamsの研究第2弾です。

第1弾はこちら:Microsoft Teamsの研究1:タブ機能は地味だけどいろいろ使える!

今回は、よく使うであろう、ファイル共有機能について紹介します。

※ 関連記事
Zoom以外のオンライン授業用コミュニケーションツールを比べてみた(Google Meet / Microsoft Teams)

2020/4/8 追記
現在、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた在宅勤務の増加で、この記事へのアクセス数が増えています。在宅勤務を増やす・また生産性を向上させるため、Teamsの使い方で気になる点があればお問合せフォームかコメント欄からご連絡ください。
可能な限りブログ記事にし、微力ながら在宅勤務の導入・効率化に貢献したく思います。

何ができるか

チームで仕事をすると、ファイルを共有したい、ということはよくありますよね。そんな時、クラウドストレージのDropboxやMicrosoftのOneDriveをパソコンに設定しておき、指定のフォルダに入れて共有することが多いでしょう。

Teamsを使うと、これに近いことがTeamsの画面上でできてしまいます。では、どんなことができるのか、見ていきましょう。

「ファイル」タブでアップロードする

まず一番わかりやすいやり方から。Teamsのチャネル画面には「ファイル」というタブがあります。ここへドラッグ&ドロップ、または「アップロード」ボタンからファイルを選択し、アップロードできます。


この画面上で、新規フォルダやファイルの作成もできます。クラウドストレージをブラウザで使うような要領なので、わかりやすいですよね。

チャット画面でアップロードする

もう1つの方法は、ちゃっと画面でアップロードする方法です。ファイルをメッセージ入力欄へドラッグ&ドロップするか、クリップのアイコンを押して、ファイルをアップロードします。


ここでアップロードしたファイルは、自動で「ファイル」タブにも反映されます。いちいちアップロードし直さなくてもよく、便利ですよね。一方、チャット画面のファイルがすべて反映されるので、放っておくとファイルタブ内がぐちゃぐちゃになりそうですね…。

編集する

あとTeamsの面白いところは、この画面上でファイル編集までできてしまうことです。

まず、ファイルタブでもチャット上でもよいので、アップロードしたファイルをクリックすると、ビュワー(閲覧)画面になります。これは見るだけで、右上の「編集」ボタンを押すとTeams上でファイル編集までできます(Officeファイルに限る)。


こちらが編集中の画面。


他のチャットツールでも閲覧まではできますが、編集までできるのはMicrosoftの強みですね。ただし(やはり)、Teams上での編集は、若干もたつく感じです。「編集ボタン」には「ブラウザで編集」という選択肢もあるので、イライラしたくなければブラウザで編集した方がいいかもしれません。

疑問。ファイルはどこにあるのか?

ここで疑問に思うかもしれません。「ここでアップロードしたファイルは、どこに保存されているのだろう?」と。

答えは「Sharepoint」です。SharepointはOffice365のチームポータルアプリケーションですが、Teamsでチームを作成すると、自動的にこのSharepointのグループができます。
Teamsで作成したTESTというチームは、SharepointでもTESTという名前です。


この中の「ドキュメント」を開いてみると、確かにTeamsでアップロードしたファイルがあります。


・・・ということは、Sharepointでアップロードしたファイルはどうなるか?やってみると、予想通り、Teamsのファイルタブにも反映されていました。

まとめ

以上、Teamsのファイル共有機能に関してできることを紹介しました。

ファイル共有も編集もできるとなると、前の記事で紹介したタブ機能と組み合わせれば、デスクワークはだいたいTeamsだけで片付いてしまうのではという気がします。外部とのやりとりが無ければ、メールソフトすら開く必要もありません。

「仕事のインターフェイス」としてのTeamsの魅力を感じました。

そのうち、第3弾も書きます!

この辺の本が参考になりそうです。

2017年10月24日火曜日

Microsoft Teamsの研究1:タブ機能は地味だけどいろいろ使える!

以前の記事(教育現場でチャットツールを使うメリット・デメリット)で、大学でのチャットツール導入に悲観的な見解を書きましたが、職場でOffice365のチャットツール・Teamsが利用できるようになったので、早速いろいろと試しています。

利用できるといっても、職場全体で導入された訳でなく、あくまで「使いたい人が使える」状態にすぎません(そして使っている人はほとんどいないと思われます)。

正直、Microsoft Teamsは、有名なビジネスチャットアプリ「Slack」のパクリという認識しかなかったのですが、使ってみるとこれは全く別モノで、優れた点も多々あると思ったので、少しずつまとめてみます。

今回は、Teamsの「タブ」機能について紹介します。

※ 筆者の利用しているサービスはOffice365 Educationであり、ビジネス向けOffice365とは若干、仕様が異なります。

※ 関連記事
Zoom以外のオンライン授業用コミュニケーションツールを比べてみた(Google Meet / Microsoft Teams)

2020/4/8 追記
現在、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた在宅勤務の増加で、この記事へのアクセス数が増えています。在宅勤務を増やす・また生産性を向上させるため、Teamsの使い方で気になる点があればお問合せフォームかコメント欄からご連絡ください。
可能な限りブログ記事にし、微力ながら在宅勤務の導入・効率化に貢献したく思います。

タブ機能とは

こちらがTeamsの画面です。Mac用のアプリケーションですが、Windowsでも大体同じです。


画面右上のほうに、「会話」「ファイル」といった文字があります。これをクリックすると、ブラウザのようにタブが切り替わります。

「ファイル」のタブにするとこんな感じ。



チャットグループ(Teamsでは「チャネル」という)内のファイル一覧を表示する機能はSlackなど他のチャットアプリでもよくある機能です。

Teamsの面白いところは、タブの一番右にある「+」を押して、自由にタブを追加できることです。

「+」を押すとこんな画面が出てきて、タブに追加できるサービス一覧が表示されます。Office365内のサービス(Excel、Word、Sharepointなど)はもちろん、Asana、Githubなどの外部サービスも「タブ」に追加できるようです。


ではこのタブ機能を使ってどんなことができるか、考えてみようと思います。

活用方法

Excelを貼り付けてプロジェクト管理・タスク管理に使う

多分、いちばん使われそうなものはこれ。チャットグループにアップロードしたExcelファイルを、タブに貼り付けます。


すると、会話画面からタブを「Project」に切り替えるとすぐにExcelファイルの内容が表示されます。


この画面上で直接編集もできるので、プロジェクトの進捗状況やタスクの追加などをスピーディーに行えます。

なお、こんな風にタブごとのチャットも作れるようです。


OneNoteで議事録をつける

タブには、Office365で提供されているノート共有アプリのOneNoteも貼り付けられます。

OneNoteではこの画像のように「目次」みたいなものを付けられるので、ミーティングごとに議事メモなどをつけるのにぴったりです。


ただ、タブを切り替えるたびに再読み込みするため、若干動作のモタつきを感じます。ここは改善してほしいところです。

OneNoteでは遅いという場合、Wikiというものも使えるようです。こちらはTeams内だけで使える簡易メモのようなものです。

PowerAppsアプリを貼り付けてTeams上から使う

PowerAppsについては、このブログでも何度か取り上げています。


簡単に言うと、「業務用アプリをプログラミングなしでさくっと作れちゃう」サービスです。PowerAppsで作ったアプリもタブに貼り付けられるため、わざわざPowerAppsを開かなくてもTeamsからすぐにアプリへアクセスし、利用できます。


ただし、PowerAppsも開くたびに再読み込みするため、若干もたつきます。

何でもいいから使っているウェブサービスを貼り付ける(例:Googleカレンダー)

最後に、タブ機能のすごいところは「ウェブサイト」を貼り付けられることです。ブラウザで表示できるサイトは何でも貼り付けられます

私の職場では、Office365を使えるものの、カレンダー機能が使えないという謎の仕様になっています。なので仕方なくGoogleカレンダーを使っているのですが、これをそのままタブに貼り付けられます。

まず、新規タブを作り、「ウェブサイト」を選択します。そして、GoogleカレンダーのURLを貼り付けます。


これで完了!1度ログインすれば、あとは常にカレンダーが表示されるようになります。


カレンダーを見るために、わざわざブラウザーを立ち上げる必要はありません。

Googleカレンダー以外にも、ウェブサイトなら何でも貼り付けられます。ブラウザで動作するチャットサービス(Chatworkとか)も貼り付けられます。チャットの中にチャットがあるという、奇妙な状況まで作り出せてしまいます。

まとめ

今回はTeamsの「タブ」機能を紹介しました。他のチャットアプリにありそうで無かった、とても優れた機能だと思います。Slackのパクリなんて思ってごめんなさい、Microsoftさん。

より便利にするために、タブを切り替えるたびに毎回再読み込みするのを、何とか改善してほしいなあと願います。

この辺の本が参考になりそうです。

2017年10月5日木曜日

Access App廃止でPowerAppsに一本化:2つの違いは?

Access Web Appとは?

Accessとは、Microsoftが提供しているデータベースアプリケーション作成ソフトです。Access Web App(以下、Access App)は、普通はデスクトップ(ローカル)で使われるAccessを、クラウドサービスのOffice365で利用できるようにしたサービスです。

普通のAccessは、基本的にローカルのパソコンで使うアプリケショーンのため、サーバー上で様々なパソコンやモバイルデバイスから利用するには厄介な仕様でした。それがAccess Appでは、はじめからクラウド上に簡単に設置できるようになりました。できること、機能は通常のAccessには劣りますが、クラウド化に合わせた進化と思われました。

しかし、そのAccess Appは、2018年4月をもってサービス停止が発表されました。そしてMicrosoftの提供するクラウドで使えるデータベースアプリケーションは、PowerAppsに一本化されることになりました。

Updating the Access Services in SharePoint Roadmap

PowerAppsとは?

PowerAppsについては、別の記事を書いています(業務用モバイルアプリが数分で作れるMicrosoftのPowerAppsを使ってみた)。PowerAppsとは、この記事で紹介しているように「モバイルアプリをプログラミングなしでさくっと作れてしまう」ウェブサービスです。モバイルアプリでは様々なデータベースに接続できるため、データベースアプリケーションの一種と言えます。

Microsoftは「マイクロソフトでは、多くのお客様が Access のカスタム Web アプリをご利用になっていることを認識しており、PowerApps への移行をできるだけスムーズに実施できるように努めています。」としています。しかしAccessとPowerAppsには、その設計思想や適正、特性に大きな違いがあり、そのまま置き換えることは容易ではないと思われます。それを次にまとめます。

Access AppとPowerAppsの違い

Access AppとPowerAppsを両方とも使って簡単なアプリを作った経験から、2つの違いをまとめてみます。

1. PCファーストとモバイルファースト

Access Appは基本的にPCのウェブブラウザで使うことをターゲットにしたアプリケーションでした。対してPowerAppsは、完全にモバイルファーストです。2つのアプリの画面を比べてみましょう。

まず、こちらがAccess App(ビデオ: Access Web アプリを作成する - Access - Office Supportからの引用)。



次に、こちらがPowerApps。


見た目からしてもPowerAppsがモバイル向けだとわかると思います。またPowerAppsにはAndroid、iOSアプリがあり、スマートフォン、タブレット上で動作させることができます。

一方でPC上でも動かすことはできますが、表示はスマートフォン、タブレットと同様で、PCの画面上、しかもマウスだと正直操作しづらいです。PCでの利用であればAccess Appの方が上でした。

2. データソース

Access Appでは、データソースは1つだけ、つまりAccess専用のデータベースしか使えませんでした。一方のPowerAppsは、様々な外部データベースと接続して利用ができます。SharePointリスト、SQLサーバー、Salesforce、さらにはDropboxやOneDriveに保存されたExcelシートまでデータソースとして使えます。

これにより、様々なデータソースと柔軟に組み合わせたアプリケーションを作れます。その点はPowerAppsの一番面白いところだと思います。Accessでアプリを作るには、「データベースとは何たるか」を多少はかじってないといけませんでした。ところがPowerAppsでは、Excelでリストさえ作れば、3分でアプリケーションができてしまうのです。

3. Office365内での連携

Access AppもOffice365で使うようになってましたが、あくまでAccessは個別の機能で、他のOffice365アプリとの連携はほぼありませんでした。PowerAppsはOffice365の中にしっかりと組み込まれ、様々なアプリと連携できます。

例えばFlow。Flowは、ワークフローを自動化「ハブサービス」の未来は?で紹介したZapier、IFTTTのような、ハブサービスです。これを使えば、PowerAppsと様々な外部アプリと連携して、「PowerAppsでSharePointリストにデータを追加したら、その内容をメールで○○へ送る」といった自動ワークフローを作成できます。

違う例ではTeams。Teamsはチャットコミュニケーションのアプリですが、これに「タブ」という機能があります。チャネル(チャットグループのこと)に関連するアプリやファイルをタブにして埋め込めるという機能です。このタブに、PowerAppsアプリを埋め込めます。なので、チームでよく使うアプリにはすぐにアクセスできます(ただし、タブを切り替えるために再読み込みするので、若干イライラする)。

こんな風に、最初からOffice365での連携を前提に作られているのがPowerAppsです。

その他

この他にもAccess AppとPowerAppsには多くの違いがあるので、詳しいところは実際に使ってみるか、MicrosoftがAccess Appの開発者向けに作成したホワイトペーパーを参照してください。

Introduction to Microsoft PowerApps for Access web apps developers

PowerAppsは本当に使えるのか?

前回の記事でも問いましたが、PowerAppsは本当に「使える」のか?という疑問は、依然としてあります。

確かに面白い機能はいっぱいあり、ものの数分でモバイルアプリが作れる(しかもExcelをデータベース代わりにして…笑)のは驚きです。

しかし、だがしかし・・・動作が若干もっさりとしていることと、PCで扱いづらいこと、この2つが特にひっかかり、本当に「使える」サービスなのかどうか、微妙なところだと思います。少なくとも、AccessやAccess Appの置き換えにはならないでしょう。

モバイルで活用したく、またOffice365内での連携が不要であれば、Kintoneなどを使ってもいい気がします。Kintoneも、データベースアプリケーションを手軽に作れるサービスで、日本のサイボウズという会社が提供しています。

PowerAppsについてはまだ日本語情報が少なく、そのためか当ブログにもPowerAppsを調べて来る人がそれなりにいるようです。いまはまだ難ありですが、PowerAppsの今後の発展には期待したいところです。今後も動向を追ったり、サンプルアプリを作ったりしてみようと思います。

PowerAppsの入門書もぼちぼち登場しています。


【更新(2018.4.29)】サンプルアプリを紹介しています:
PowerAppsで作るアプリ例 (1):学生情報検索アプリ

2017年9月20日水曜日

春秋戦国時代より面白い?:高口康太『現代中国経営者列伝』

上海
国民総生産(GDP)で中国が日本を抜き世界2位になったのが2010年。それから7年が過ぎ、日本では中国人観光客による「爆買い」が話題になるなど、経済の成長ぶりは誰もが知るところとなりました。

一方で、中国というと眉につばをつけて見る人も多いと思います。今の中国の成長は国の規模をバックにしたバブルでありハリボテであり、いつか必ず崩壊すると戦々恐々としている人もいるでしょう。

そうした中国 観を脇に置いて、読み物として楽しめるのが『現代中国経営者列伝』です。
本書は、急速に経済成長してきた中国で、その波に乗り成功を遂げた起業家8人の人物伝であり、そこから改革開放に始まり現代にいたる中国経済の躍動感が見えてきます。

紹介されている経営者

本書で紹介されている経営者は次の8人。
  • 柳傳志(レノボ)
  • 張瑞敏(ハイアール)
  • 宗慶後(ワハハ)
  • 任正非(ファーウェイ)
  • 王健林(ワンダ・グループ)
  • 馬雲(アリババ)
  • 古永鏘(ヨーク)
  • 雷軍(シャオミ)
この中で、日本でもよく知られているのは、レノボ、ファーウェイ、アリババでしょう。レノボは言わずと知れた世界的PCメーカーで、NECのPC部門を買収しました。ファーウェイはスマートフォンで日本市場でも勢いに乗っています。アリババは、2014年にニューヨーク証券取引所に世界最大規模の上場を果たし、またソフトバンクの孫正義氏と深い関係にあることでも経済紙を賑わせました。他の5社も、現代の中国経済を語る上では外せない存在となっています。

この8人が、いかにして起業し、その後の困難を乗り越えて今に至っているかが、一冊の中でコンパクトにまとめられています。 それぞれのエピソードは本で読んでいただくとして、ここでは面白かった点を1つ紹介します。

起業・事業スタートは40歳前後

彼らはいずれも、創業やメインとなる事業スタートは40歳前後のときでした。レノボの柳が前身となる北京計算機新技術発展公司の創業に加わったのは彼が40歳のとき。任がファーウェイを創業したのは43歳。馬によるアリババの創業は35歳の時です。

中国は社会主義国であったので、全てが国有企業でした。それが変わったのは1980年代から。こういった背景もあり、彼ら起業家は、もともとは国営企業や国立研究所、軍などに所属していました。そこから民間で企業し、急成長を遂げたのです。比較的若いシャオミの雷も、キングソフト勤務を経て、40歳で起業しています。

今では20代で起業する中国の若者もいるらしいですが、本書のストーリーを読んでいると、40前後になっても全く違う環境に挑戦できるという勇気がもらえるのではないでしょうか。

まとめ

彼らは今でも現役の経営者であり、現在進行形で困難・課題に直面しています。裏を返せば、まだそれだけ中国市場経済の歴史は浅く、今後も強烈なキャラクターでのし上がっていく経営者が現れる可能性が高いと言えるでしょう。

これからも現代中国の経営者から目が離せません。また、日本やアジアの若い世代が、こうした現代中国の辣腕経営者に「憧れ」、また参考にして起業することが増えてくるのではと思います。

2017年9月10日日曜日

幻想を捨てて戦略を持とう:常見陽平『「就活」と日本社会ー平等幻想を超えて』


日本型就活は死ななくてもよい:海老原嗣生『お祈りメール来た、日本死ね』に引き続き、就活関係の本です。

常見陽平氏は現在、千葉商科大学専任講師。「若き老害」を自称し、様々なメディアで就活問題、労働問題などについて発信している方(そして時々、炎上している)なので、名前を知っている方も多いと思います。

著者本人のウェブサイトには、次のようなプロフィールが掲載されています。
プロフィール】常見陽平(つねみようへい) 身長175センチ 体重85キロ 千葉商科大学国際教養学部専任講師/いしかわUIターン応援団長 北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。 専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。
http://www.yo-hey.com/ より。

そんな常見氏による就活についての新書です。


本書の特徴

常見氏の就活に関する著作はたくさんあります。『くたばれ!就職氷河期  就活格差を乗り越えろ 』(2012)、『就活の神さま~自信のなかったボクを「納得内定」に導いた22の教え~』(2011)などです。

その中で本書の特徴は、「就活」を社会学的な視座からも捉えようとしていることにあるのではと思います。

というのも、もともと著者は学部卒後、企業勤務を経て言論活動を行っていましたが、それと並行して大学院へ入学し、修士号を取得しています。本書は、修士論文での研究成果の一部を取り入れて、学術的な視点とジャーナリズム的な視点を織り交ぜて書かれています。

そのため、多くの先行研究や統計データが参照され、印象論や経験談に頼らない内容となっています。一方、完全な学術書でもないので、ウェブ記事などで見かける著者の 持ち味が出ている面白さもあります。

「就活」を取り巻くデータと研究史

本書は4章構成となっています。
  • 序章 日本の「就活」をどう捉えるか
  • 第1章 「新卒一括採用」の特徴
  • 第2章 採用基準はなぜ不透明になるのか
  • 第3章 「新卒一括採用」の選抜システム
  • 第4章 「就活」の平等幻想を超えて
第1章〜第3章は、統計データや先行研究を参照しながら「就活」を取り巻く歴史と現状を明らかにしています。そして第4章が著者のオピニオン、という構成です。

就活を論じるマスメディアの記事や新書は多いものの、学術的な視点からまともに「就活」を取り上げたものはあまり見かけないため、第1章〜第3章まで目を通すだけでも、だいぶ参考になるのではと思います。

マスメディアで「通説」のように語られていることも、データを確認して検証しています。

例えば、「欧米では新卒一括採用なんて存在しないから、在学中に就活することはない」という通説があります。しかし実際のところは、欧州でも約4割が在学中に就職活動を行っていることが統計をもとに紹介されています(p.64)。

また、いわゆる「学歴フィルター」についても取り上げられています。「学歴フィルター」とは、企業が応募者の出身大学の入学難易度(偏差値)によって選考にフィルターをかける、と言われている仕組みのこと。企業への応募要件には出身大学の制限などは書かれておらず、どんな大学出身でも公平に選考されると思いきや、有名大学でなければ企業説明会にすら参加できない・・・ということも巷では言われています。

本書では、この「学歴フィルター」を先行研究に基づいて検証しています。 実は、大学によってその後の就職がどう左右されるかという研究は、「トランジション研究」(学校から職業への移行に関する研究)ということで、教育社会学や労働社会学の分野で繰り返し行われてきたとのこと(p.24)。

こうした研究から、大手企業が有名大学に対して採用枠を設けていたり、大学名を基準に採用活動を行っている面がある事実は確認されています。ただし採用には様々な類型があり、企業規模や採用時期によっては大学名の基準が変動する(よりオープンになる)ことがあると、第3章では指摘されています。

最後に:幻想を捨てて戦略を持とう

本書の副題「平等幻想を超えて」にある通り、日本の「就活」には誰もが大手優良企業に就職できる公平なチャンスがあるかのような平等幻想を描いてしまい、そのために求職者(学生)も企業も膨大な手間とコスト、精神的な負担がかかって消耗している現状を、著者は指摘しています。

そして、第4章の最後を、著者は次のように結んでいます。
もう、平等という幻想にしがみつくのはやめよう。競争が平等でないということに気づこうではないか。(中略)平等ではないことを受け入れることで、弱者は弱者なりの生存戦略を考えようではないか。(p.205)
確かに、その通りだと思います。

企業就職する場合は、どんな人でもこういった戦略的思考は持った方がいいでしょう。巨大な資本を抱えた大企業のマーケティング戦略と小資本の中小企業のマーケティング戦略が全く異なるように、自分の所属大学や持っているスキル(これから持ちうる、持ちたいスキル)をもとに、戦略的な思考で就職先を考えることは重要です。

ただ難しいのが、はじめから頭で考えることばかりしていると、自分で自分の可能性を狭めたり、チャンスを逃す可能性もあります。ひょんな縁から就職が決まるということもありますからね。

また、こういった就活の戦略を、就業経験のない学生が就活時期になってから考え始めるなんて、無茶なことです(だから極度に消耗する)。大学入学後の早い時期から、戦略を考えるチャンスを、大学や周囲が作ってサポートする必要があると思います。

逆に企業側も、平等を装って採用活動を行うのは、大きなコストになっています。余裕のある大手企業はともかく、中小企業や無名な企業は、就職ナビなどに頼って応募者を集めるよりは、有名大学よりも質の高い教育を行っている大学を狙い撃ちにするとか、地方自治体と連携して既卒者にアプローチするとか、様々な手法があります。

最後に、本書でいう「就活」は、日本での企業就職を目指す健康な大卒者(おそらく主に学部卒者が中心)が行う求職活動のことを指しています。この他にも求職活動、労働の形には様々な立場に立ったものがあるため、今後の研究で、現状では範疇外になっている点も含めて「就活」問題を追求してくれることを願います。