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2017年8月17日木曜日

ロシアに行ったら買っておきたい:何でも中東風の香りになる魔法の粉フメリ・スネリ

いつも真面目な記事ばかりだと退屈するので、夏休みだし、今回は調味料の話をしようと思います。

ロシアのスーパーには、様々な「カンタン」調味料が並べられています。日本でいう中華調味料的な存在で、例えば「ボルシチのもと」、「プロフのもと」など、定番料理がカンタンに作れる調味料がたくさんあります。また、ガーリックやディルの粉末などもあります。

そのうちの1つ、私がロシアへ行く度に買っている調味料が、まるで魔法の粉のように色々と使えるので紹介したいと思います。

その名もХмели-Сунели(フメリ・スネリ)

フメリ・スネリとは??

パッケージはこんな感じです。



一言でいうと、「何でも中東風の料理っぽくなる粉」です。

原材料は、パッケージの裏に書いてあります。


これを日本語にすると、
コリアンダー、ディル、バジル、マジョラム、フェヌグリーク、塩、パセリ、ピンクペッパー、ミント、ローリエ
となります。見るからに香ばしい感じの香辛料で構成されているようですね。
パッケージの写真も食欲をそそります・・・。

ロシアのスーパーではだいたいどこでも売られており、1パック数十円で購入できます。

使い道は??

パッケージには、次のように説明がされています。
フメリ・スネリ:ジョージア(グルジア)とアルメニア、および他のコーカサスの民族に使われている有名な香辛料。フメリ・スネリは第一にハルチョー作りに使われる。また、肉料理やスープのユニバーサルな調味料でもある。
ハルチョーというのは、有名なジョージア料理です。赤いスープが特徴的で、ボルシチに似ていますが、ボルシチよりも濃厚で少し辛味があります。

そのジョージアをはじめとしたコーカサス地方で使われている調味料とのことですが、コーカサス料理以外にも様々な料理に使えます。

次に、個人的におすすめしたい、フメリ・スネリがよく合う料理を紹介します。

フメリ・スネリがぴったり!個人的おすすめ料理

ハンバーグ

通常のハンバーグのたねに、フメリ・スネリを入れればあら不思議!たちまち香ばしさが激増し、ケバブのような風味になります。

ハンバーグ以外にも、基本的に肉料理には何でもよく合うと思います。

マヨネーズ・タルタルソース

ドレッシングを作るときにも使えます。いつものマヨネーズやタルタルソースでは何か物足りない時、フメリ・スネリを1つまみ入れてください。

すると、あら不思議!ただのサラダやエビフライが、たちまちコーカサス料理に大変身します。

納豆

最後に、意外なんですが納豆にも使えます。

これは好みが分かれると思いますが、要するに納豆に山椒を入れるような感じと捉えてください。「納豆 山椒」で検索すると、「上品な香りになる」「大人な味になる」などおすすめする記事がたくさん出てきます。

ちょっぴり大人っぽい納豆ご飯!山椒トッピング

これと同じように、フメリ・スネリを入れても美味しくなります。納豆好きの方におすすめです。

まとめ

以上、ロシアで買える魔法の粉「フメリ・スネリ」を紹介しました。

ぜひロシアへお越しの際は近くのスーパーへ立ち寄り、この魔法の粉を手に入れて日本へ帰ってください!

(そして誰か、Cookpadにレシピを公開して、フメリ・スネリを日本に広めてください。)

2017年6月15日木曜日

ロシア発?「簡単に美しいウェブサイトが作れる系」サービス”Tilda”を使ってみた


ひと昔前は、見栄えの良いホームページ(ウェブサイト)を作ろうと思ったら、デザインを勉強したりHTMLやCSSといったコードを書けるようになる事が必要でした。

しかし、いまは違います。「簡単に美しいウェブサイトが作れる系」サービスがいくつも登場し、専門知識やセンスがなくても簡単に綺麗なウェブサイトが作れるようになりました。

日本で有名なのは、次のようなサービスでしょう。
今回は、主にロシア向けに展開されている「簡単に美しいウェブサイトが作れる系」サービス、Tilda(Tilda Publishing)を紹介します。

Tildaとは

Tildaは、ロシア出身のデザイナー、ニキータ・オブホフ氏が立ち上げたサービスです。

НИКИТА ОБУХОВ
オブホフ氏はロシア出身ですが、Tildaのオフィスがどこにあるのか、はっきりした情報がありません。Tilda公式Twitterの所在地はLondonになっています。このため、「ロシア発?」と一応はてなを付けておきました。

URLはTilda.ccとなっており、日本からアクセスすると、ひとまずロシア語のページへ飛ばされます。
英語でのページはこちらです。

英語でも十分にサービスを使えるようにはなっていますが、ロシアの大手検索エンジンYandexの決済サービスが使えるなど、基本的にはロシア重視のサービスになっています。

Tildaの特徴

「簡単に美しいウェブサイトが作れる系」サービスの特徴として、コードの事が全く分からなくてもサイトを作れる、基本機能は無料、テンプレートが豊富にある、スマホ対応している、などがありますが、これはTildaにも共通です。

この他に、Tildaのサービスの紹介を見て、面白いな〜と思った特徴を挙げてみます。

基本的に1カラムのインパクト重視デザイン

デザインテンプレートはこちらから見れます。なかなかスタイリッシュなデザインだと思います。

デザインの構成は1カラム、つまりサイドバーなどが付かないデザインになっています。画像を画面いっぱいに大胆に使い、印象的なページに仕上がるようなテンプレートが豊富です。

オンライン・ストアが簡単に作れる

決済サービスと連携し、オンラインストアが作れます。Paypal、Stripeと連携でき、ロシア向けではさらにЯндекс Деньги(ヤンデックス・ジェンギ)という決済サービスとも連携できます。

外部サービスとの連携が多い

訪問者とのコミュニケーションに使える外部サービスとの連携が豊富です。フォームサービスではGoogle Form、Typeform、チャットサービスではSlack、Telegramといった有名どころと連携ができます。

ソースコードをエクスポートできる

これはちょっと驚きです。Tildaで作ったページのソースコード(プログラム)をファイルとして出力してダウンロードできるようです。このファイルを別のサーバーへアップロードすれば、そのままTildaで作ったサイトをコピーする事ができます。

これのどこが驚きかというと、例えば誰かから「ホームページ作って」と頼まれた時に、Tildaで作ってエクスポートし、そのファイルをちょっといじれば完成してしまう、という事も可能になってしまうのです。え、いいの?という感じです。他の類似サービスではあまり無い機能な気がします。

料金

基本無料ですが、料金プランがあります。

無料

  • 1サイト、50ページ、50MBまで
  • Key blocks collection使用

パーソナルプラン:10ドル/月(年間払いの場合)

  • 1サイト、500ページ、1GBまで
  • Full blocks collection利用 可能
  • 独自ドメインほか全ての機能を利用可

ビジネスプラン:20ドル/月(年間払いの場合)

  • 5サイト、各サイト500ページ、1GBまで
無料とパーソナルプランの大きな違いは、使えるブロック・コレクション(blocks collection)の種類の数です。Tildaでいうブロックは、ウェブサイトでよく使うパーツのテンプレートの事ですが、 このテンプレートの数が多ければ、それだけ様々なコンテンツ、デザインのサイトを簡単に作成することができます。無料の場合、ごく基本的なブロックテンプレートに制限されています。

その他、パーソナルプランではフルの機能を使え、ビジネスプランではサイト数が増やせる、という棲み分けになっています。

使ってみよう

それでは恒例・・・使ってみましょう!

まず、登録が必要です。英語ページへは、ロシア語ページの最下部のリンクから飛べます。
・・・が、せっかくなのでロシア語ページから登録してみましょう。


まず、右上の黒い四角Регистрацияが「Register」という意味なので、クリックします。


この画面に、ユーザー名、メールアドレス、パスワードを入力します。
そして下のボタンを押します。


すると、すぐに管理画面へ飛びます。最近よくある、メール認証は不要です。しかし、この管理画面・・・うわ!ロシア語じゃん!でも安心。左上のメニューПрофиль(Profile)から、言語の変更ができます。


Languageを、Englishに変更します。


これで英語メニューになりました!


そのあとは、割と直感で操作できると思います。まず、テンプレートを選びます。テンプレートのカテゴリは、大きく「Business」「Editorial」「Cover page」と分かれていますが、今回は「Editorial」を選択します。


使いたいテンプレートを見つけたら、Createを押します。すると編集画面になるので、あとは好きなように編集しましょう!

まとめ

以上、ロシア発「簡単に美しいウェブサイトが作れる系」サービス、Tildaを紹介しました。

実際のページ、編集画面とも非常にスタイリッシュなデザインで、操作性も悪く無いと思われます。ロシア向けサービスとの連携があるため、例えばロシア向けにスモールビジネスを行いたい場合などは良いかもしれません。

難点として、この手のデザインは、日本語テキストを使うとどうも見栄えが悪くなってしまいます。また、Tildaは世界的にそれほどメジャーなサービスとも思え無いため、ある日突然サービス終了、なんて事もあり得ます。

それは承知の上で、短期間で印象的なウェブサイト(特に海外、外国人向け)を低コストで作りたい場合、選択肢に加えてもいいのではと思います。

2017年6月10日土曜日

開幕!カザフスタン・アスタナ万博とカザフスタンのこれから

先日、大阪が2025年の万博開催地に立候補した事がニュースとなりましたが、今年の万博がどこで開催されるか、ご存知でしょうか。今年は、カザフスタン共和国の首都・アスタナで開催されています。6月9日に開会式が行われ、会期は6月10日から9月10日まで、3ヶ月間です。

カザフスタンとは?アスタナとは?

カザフスタンはソ連崩壊後に独立し、2017年で独立25年を迎えます。ロシアの南、中国の東に位置し、国土面積は世界第9位という広さに対し、人口は約1,700万人です。天然ガス、石油、レアメタルなどの天然資源が豊富で、2000年代に急激な経済発展を遂げました。ただ、ここ数年は資源価格の下落により、経済は少し減速しています。


 カザフスタンのGDP成長率

主要民族はカザフ人で、人口のおよそ7割を占めます。カザフ人はアジア系の顔立ちで、日本人ともよく似ています。最近だと、「美しすぎる女子バレー選手」として話題になったサビーナ選手が話題になりました。カザフ人以外にはロシア人や朝鮮人など多くの民族が暮らしています。 フィギュアスケートのデニス・テン選手も朝鮮系カザフスタン人です。
サビーナ・アルティンベコワ選手(instagramより)

そのカザフスタンの首都がアスタナです。もともとカザフスタンの首都は、南部のアルマティでしたが、1998年にアスタナへ遷都されました。アルマティでの大地震や、ロシア系住民の多い北部の分離独立を警戒したためなど、遷都の理由は様々あるようです。

遷都の前は、アクモラという名前の街でした。当時の人口は25万人程度で、遷都後に急速に街が整備され、現在は80万人を超えています。なお、アスタナの新都市を設計したのは、コンペで優勝した日本の建築家・黒川紀章氏です。

新たに作られた都市のため、市内には斬新な形状をした、近未来的な建築物が多々あります。

首都・アスタナ

アスタナ万博のテーマ

アスタナ万博のテーマは「Future Energy」。自然エネルギーの活用、エネルギー利用の効率化など、未来のエネルギーのあり方を考えることが焦点となっており、100以上の国・地域と国際機関のパビリオンにはそれぞれのアピールしたいテクノロジーや取り組みが紹介されているようです。

アスタナ万博の公式ページ(英語)はこちら

会場図もありますが、日本で行われた大阪万博や、数年前に行われた上海万博、ミラノ万博ほどの規模は無いように見えると思います。

それもそのはず。ひとくちに「万博」といっても、5年に1回程度開催される大規模な万博(登録博)と、専門的なテーマに絞った万博(認定博)があり、アスタナ万博は後者の認定博の方です。認定博は、会期や会場面積などに制限があり、分野も絞られた万博です。なので、規模もテーマも限定的です。

とはいえ、国際的な大規模イベントであることには変わりなく、かなりの労力と資金が投じられ、一般の人が楽しめるようになっています。

テーマに沿ったパビリオンのほか、シルク・ドゥ・ソレイユの公演など文化イベント、その他様々なイベントが開催されるようです。

なお、日本もパビリオンを出しています。日本館の特設サイトはこちら

カザフスタン国民の熱狂は?

日本では、かつての大阪万博が国民の熱狂を呼び、その後の高度成長期へと繋がった象徴的なイベントでした。前述のように「認定博」とはいえ、新興国であるカザフスタンでの万博開催となれば、さぞかし国民が熱狂していることでしょう・・・と思いきや、案外そうでもないようです。

東京オリンピックがいまいち盛り上がらず、開催に反対する都民が一定数いるように、アスタナ万博も冷めた目で見ているカザフスタン国民もいます。

これには理由があって、アスタナ万博は、プロジェクト開始から様々なスキャンダル、トラブルに見舞われてきました。




この記事によると、アスタナ万博をめぐって次のようなスキャンダル、トラブルがあったようです。関係者の自動車事故、アスタナ万博のための国策会社幹部による組織ぐるみの汚職、建設中のパビリオン内でバーベキューして(ネットが)炎上しちゃった問題、マスコットキャラクター変更論争、さらには吹雪による建設中パビリオンの倒壊・・・。
これはさすがのカザフスタン国民もゲンナリするはずです。

まあ東京五輪も、スタジアム問題、会場問題、ロゴ問題、費用負担問題、無償ボランティア・・・とこれまでも問題山積でまだまだ問題は出てきそうなので、よその国のことは言えませんけどね。今のところ、汚職が無いだけましでしょうか。

批判はさておき、多くのカザフスタン国民は「やるなら成功してほしい」とは思っているはずです。アスタナ万博の成功を祈ります。

万博後、カザフスタンはどこへ向かうのか

カザフスタンの向かう方向性は明確です。カザフスタン政府は「Kazakhstan 2050」という、2050年に向けた国家目標を定めています。

「Kazakhstan 2050」の特設サイトまであります。
これによると、カザフスタンは「2050年までに一人当たりGDPを60,000USドルまで増やす」という目標を掲げています。2016年の日本の一人当たりGDPが38,917ドル(世界22位)なので、かなり野心的な目標と言えます。なお、2016年のカザフスタンの一人当たりGDPは7,452ドルで、世界77位となっています(参考)。

また、経済成長だけではなく、「2025年までにカザフ語をキリル文字からラテン文字へ移行する」といったアイデンティティーに関わる目標や、「水問題の解決」など環境・国際関係に関わる目標も掲げています。

カザフスタンはいま、岐路に立たされていると思われます。しばらく経済成長を支えてきた天然資源価格の上昇は終わりました。また、独立から25年、大統領としてカザフスタンの成長をけん引してきたナザルバエフ大統領ですが、高齢となり世代交代の必要に迫られるでしょう。

アスタナ万博の遺産を活用し更なる発展へと舵を切れるか、それとも負の遺産として持て余し、停滞の時代を迎えるのか。カザフスタンの今後に要注目です。

2017年5月5日金曜日

最新 世界情勢地図:100枚の地図で理解する世界のいま



本屋で思わず手にとって衝動買いしてしまった一冊。

パスカル・ボニファス (著), ユベール・ヴェドリーヌ (著), 佐藤 絵里 (翻訳)『増補改訂版 最新 世界情勢地図』ディスカヴァー・トゥエンティワン,2016

本書では、およそ100枚の世界地図とそのテキストによって、世界情勢を解説しています。

どんな地図かというと、ヨーロッパが世界中に植民地を持っていた時代、世界の環境問題、人口分布、特定の国や集団から見た世界など、様々なテーマに基づき、カラフルで分かりやすく示された地図です。Amazonの商品ページにサンプルがあるので、そちらを見るのが早いでしょう。


この本の優れたところは、これまで気に留めていなかった世界の事実に、ビジュアルによって気づかせてくれるところです。

中でも面白いのは、「◯◯から見た世界」の章。米国、ヨーロッパの主要各国、トルコ、ロシア、中国、日本などの国々、あるいは「アラブ世界」、「イスラム主義者」など特定の集団の視点から世界情勢を見る、という試みです。

例えば、米国であれば、米国がどんな国と軍事的、経済的な同盟関係にあり、どんな国を警戒しているのかが一枚の世界地図でパッと分かるようになっています。これが「ロシアから見た世界」の場合、ロシア帝国時代の領土拡大の過程の地図が入ります。このように、国によって取り上げられる話題が異なります。各国はそれぞれの課題を抱えているからです。「日本から見た世界」は、中国などと比べると大分あっさりとしています(見れば分かります)。日本ってあんまり注目されてないんですかね。

なお国として取り上げられているのは主要な国のみで、全ての国の項目はありません。アフリカ諸国の中では、南アフリカとセネガルだけが取り上げられていました。南アフリカはいいとして、なぜセネガルなんだろう。国の規模や影響力からして今ならナイジェリアやエジプトの方がふさわしいのではと思いますが。著者がフランス人ということが関係しているのかもしれません。

このような多少の偏りはあるにせよ、カラフルな地図を眺めているだけでも楽しいです。「あ、ここの国々はこんな共同体作ってたんだ!」とか、「この地域ってこんな紛争があったのか」とか気づくことができます。

気づきを得たその後は、本文のテキストを読むと理解が進みます。しかしテキストは1つの項目につき1ページ。それほど深堀できている訳ではありません。あくまでテキストは参考程度で、気になった問題はネットや他の本で調べるなりしましょう。

気づきのきっかけとしては、素晴らしく楽しい一冊だと思います。

(統計データについて気になったら、公開データを調べてみてください。参考記事:Google Public Dataを使ってグラフで遊ぼう

2017年4月25日火曜日

オルハン・パムク『僕の違和感』:現代トルコの半世紀を追体験する


「ロシア文学が好き」、「フランス文学が好き」という人は容易く見つかるが、「トルコ文学が好き」という人はあまり多くないでしょう。

今回紹介するのは、現代トルコで最も有名な作家オルハン・パムクの『僕の違和感』(2016)です。

オルハン・パムクとは

オルハン・パムクは、1952年トルコのイスタンブール生まれ。イスタンブール工科大学で建築を学び、イスタンブール大学でジャーナリズムの学位を取得。その後、コロンビア大学客員研究員としてアメリカに滞在。作家デビューは1982年の『ジェヴデット氏と息子たち』(オルハン・ケマル小説賞受賞)。その後も数々の 文学賞を受賞。2006年にはノーベル文学賞を受賞。代表作は『わたしの名は赤』、『雪』、『無垢の博物館』 など。

パムク氏の経歴は、公式サイト(英語)を見るのが一番でしょう。今の時代、小説家も自分のウェブサイトを持っているんですね。
日本語の場合は、Wikipedia、藤原書店の紹介が参考になります。
ノーベル賞受賞時に一気に知名度が高まりましたが、それから数年が経ち、日本での知名度は低くなっていると思います。ただ執筆意欲は旺盛で、2016年には最新作"Hatıraların Masumiyeti"(英題:The Red-Haired Woman)を刊行しました。

パムクは、トルコの特にイスタンブールを舞台とした作品を多く描いており、オスマン帝国時代〜現代まで、異なる時代のイスタンブールを登場させています。

2016年に和訳が刊行された『僕の違和感』も、イスタンブールを舞台にした作品です。それでは、作品について紹介します。

『僕の違和感』あらすじ

本書は上下巻の長編小説で、1950年代から2012年までのおよそ半世紀の間の、主人公メヴルト・カラタシュとその家族、親戚、友人たちの半生を描いた物語です。
主人公メヴルト・カラタシュは、12歳で故郷の村からイスタンブールへ移り住み、父と共にトルコの伝統飲料”ボザ”を売り歩くようになる。大都会の生活に馴染む中、同じく村から出てきたいとこの結婚披露宴で、美しい少女に一目惚れする。その後、熱烈な恋文を送り続け、ついには駆け落ちを実行するーー。
物語冒頭は、この駆け落ちの場面から始まります。駆け落ち自体は成功しましたが、その後とんでもない事実にメヴルトは気づきます。この駆け落ちした相手が、披露宴で一目惚れした少女ではなく、その姉だったのです。しかしメヴルトは、それに気づきながらも、一目惚れした少女の姉”ライハ”と、苦労しながらも幸せな家庭を築いていきます。

物語はその後、メヴルトの子供時代に戻り、イスタンブールへの移住、学校生活、ボザ売りの仕事、ライハとの駆け落ち・結婚、出産・・・と時代は冒頭に戻り、さらに先へと進んでいきます。その中で、メヴルトとメヴルトの周囲では様々な出来事が起こります。クルド人の親友フェルハトとの出会い、徴兵、仕事の失敗、住民同士の抗争・・・等々。こういったそれぞれの物語が、相互に絡まりながら、まるで舞台脚本のように様々な登場人物の口から語られていく形式になっています。

続いて感想を書きますが、先入観なく本作を読みたい場合はここで止めて、本を入手してください。


感想

圧巻、の一言です。主人公はごく平凡な、心優しい青年に過ぎません。何ら特別な存在ではなく、その時代に田舎から大都会へ出てきた何百万というトルコ人青年の一人です。大きな陰謀に巻き込まれるわけでもありません。確かに駆け落ちは劇的のように感じますが、許され難いものの実はよくある手段であり、主人公メヴルトが最初に恋した相手も別の男性と駆け落ちをしています。主人公以外の登場人物もそれぞれ、ごくありふれた人々です。それにも関わらず、緻密な構成と描写により、物語としても飽きることなく、トルコの半世紀を生きたそれぞれの人物の息遣いが活き活きと感じられます。

何よりも素晴らしいのは、イスタンブールという都市の描写です。これまでに幾度となくイスタンブールを描いてきた作家だけあって、イスタンブールの半世紀の劇的な変化が、主人公メヴルトの視点から丁寧に描かれています。メヴルトは伝統飲料”ボザ”を売るために、イスタンブールの路地を日々歩き続けます。路地から見える、変わり続ける都市の風景を、時に喜び、時に寂しく思うメヴルト。私はイスタンブールの空港にしか行ったことがありませんが、本書を読み、イスタンブールが何年か暮らした街のように郷愁を感じられるようになりました。

また、イスタンブールだけではなく、トルコの半世紀を追体験できるといってもよいでしょう。周知の通り、現代トルコはケマル・アタチュルクが打ち建てた世俗主義の国家です。しかし最近のトルコを見てわかる通り、イスラム教はトルコ社会と不可分のもので、世俗主義と信仰心の間で揺れ動くメヴルトや社会の様子も描かれています。世俗主義に加えて社会主義が一部の支持を集めた時代もあり、作中の人物も関わりを持ちます。クルド人というキーワードもよく出ます。そして後半では、資本主義国家として急成長したトルコ社会も描かれます。こういった変化が、歴史として解説されるのではなく、登場人物の口から語られるのです。メヴルトは何かひとつの思想の熱心な信奉者ではなく、どちらかというと冷めた視点で、社会の変化と向き合っています。

トルコとイスタンブールの半世紀の描写、というのは本作の大きな魅力であることは確かです。それと同時に、決してこれはトルコ土着の文学ではなく、それぞれの人生を歩む全ての人に向けた文学だと、思います。私は、最後の一文でそのことを感じました。

まとめ

文学作品の評価が定まるまでは時間がかかりますが、オルハン・パムク『僕の違和感』は、間違いなく名作の一つとなると思います。日本ではあまり話題にされない海外文学の中の、さらにマイナーなトルコ文学で、この作品を知る人が少ないことが残念です。宮下遼さんの日本語訳は読みやすく、登場人物の相関図も載っているので、海外文学が苦手でも抵抗なく読めると思います。

そして本書を読んでパムクに興味を持ったら、他の作品も読んでみると良いでしょう。主な作品には日本語訳があります。



また、現代トルコの歴史に興味を持ったら、最近刊行された新書『トルコ現代史』に目を通してみましょう。

パムク作品については、また取り上げたいと思います。

2017年3月23日木曜日

アゼルバイジャンについて知るために読んだ方がよさそうな本



日本ではあまり知名度の高くない、アゼルバイジャンという国について知ることができる本をまとめました。

私自身は、仕事で二度、アゼルバイジャンへ行っています。テレビ朝日「世界の街道をゆく」で特集が組まれていますが、非常に奥が深い国です。まず、こちらに紹介する本を読んで、基礎知識をつけましょう。

全般

定番ではありますが、明石書店のシリーズで「コーカサスを知るための60章」という本があるので、目を通してみましょう。

アゼルバイジャンはコーカサス諸国(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)の1つとして数えられるため、この地域全般の事情を、まず抑えておくと、アゼルバイジャンへの理解も深まります。とくにアルメニアとの関係は必ず知っておいてください。これを知らずにアゼルバイジャンへ行くと、いろいろな意味で危険です。


政治・国際関係

アゼルバイジャンの政治・国際関係について知るためには、慶応大学の廣瀬陽子先生の著作を読んでみるとよいでしょう。

コーカサス全般や旧ソ連地域を扱った著作であっても、アゼルバイジャンに関する記述量が多い傾向にあります。かといってアゼルバイジャンびいきという訳でもなく、中立的な視点から書かれています。


経済・ビジネス

ビジネスに関しては、こちらの本を読むと事情が分かるでしょう。注意したいのは、この本が出版される少し前までは、石油価格が高値を維持しており、産油国であるアゼルバイジャンの経済も好調だったということです。その後、石油価格は大幅に下落し、アゼルバイジャン経済は苦境に立たされています。

しかし、だからといってアゼルバイジャン経済が崩壊した訳でもなく、まだまだポテンシャルは高いと思います。その一端を垣間見たい方にはおすすめの一冊です。

言語

アゼルバイジャンでは、アゼルバイジャン 語という言語が話されています。「アゼリ語」、「アゼリ・トルコ語」と言われる場合もありますが、現在の公式な呼び方は「アゼルバイジャン語」です。アゼルバイジャン語はトルコ語、カザフ語、ウズベク語などが含まれるテュルク系の言語の中でも、特にトルコ語と非常に近く、通訳なしでほとんどお互いに理解できます。そこで、かつては「トルコ語」と公式に呼ばれていた時期もありました。

そんなアゼルバイジャン語、日本でもいくつか教科書や辞典が出版されています。


また、言語政策に興味があれば、下記の論集を読むとよいでしょう。アゼルバイジャンの言語政策に関する論文が掲載されています。

岡洋樹編(2011)「歴史の再定義 : 旧ソ連圏アジア諸国における歴史認識と学術・教育」(東北アジア研究センター叢書:第45号)

まとめ

アゼルバイジャン人は長い間、トルコ民族とほぼ同じ民族として見られ、また彼ら自身でも「アゼルバイジャン人」としてのアイデンティティーが昔からあった訳ではありません。現在の形で「アゼルバイジャン人」のアイデンティティーが形成されたのは20世紀に入ってからです。

かと言ってトルコと全てが一体なのかというと、そういう訳でもありません。重層的に色々なものが重なって出来上がっている国です。決して「産油国で金満なトルコ人国家」ではありません。一度は現地へ行ってみることをオススメします。

追記: 「アゼルバイジャン人」というアイデンティティー形成について、新刊が出たようです。内容は少し難しそうですが、ぜひ読んでみましょう。

2017年1月13日金曜日

モルドバ知るために読んだ方がよさそうな本

画像:wikipediaより

ウクライナを知るために読んだ方がよさそうな本を書きましたが、実は同じ出張でモルドバへも行きます。モルディブではなく、モルドバです。ウクライナの隣にある、ヨーロッパの国です。モルドバに関する本も、紹介します。

概要

  • 六鹿 茂夫 (2007)『ルーマニアを知るための60章 エリア・スタディーズ』明石書店
モルドバなのに何でルーマニアなのという感じですが、モルドバ人とルーマニア人は同じ民族といってもよいのです。言語もかつては「モルドバ語」と言われていましたが、今では「ルーマニア語」に統一されています。このため、ルーマニアとモルドバの統合論もたびたび浮上します(今のEUとロシアの関係を見ると、しばらくは実現しないと思いますが)。モルドバへ行くにあたっては、ルーマニアのことも知っておいたほうがいいです。


歴史

  • 柴 宜弘 編(1998)『バルカン史 (世界各国史)』山川出版
「バルカン」といえば、バルカン半島の 旧ユーゴスラビア(スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア)あたりを思い浮かべるでしょう。この本ではルーマニア・モルドバもバルカンの歴史に組み込まれて語られています。ウクライナの記事で紹介した『ポーランド・ウクライナ・バルト史 (世界各国史) 』と同じシリーズですが構成はちょっと違っていて、各国ごと独立させた項目はほとんどなく、時代ごとに地域全体の歴史が語られています。「モルドバの歴史だけ読みたい」というニーズを満たすのは難しいですが、地域全体の歴史を俯瞰できることがメリットです。


  • 黛 秋津(2013)『三つの世界の狭間で ―西欧・ロシア・オスマンとワラキア・モルドヴァ問題―』
未入手のため、中身を読めていません。本格的な歴史書のようです。amazonの紹介文には次のように書かれています。
世界史の「見えざる焦点」、そこでは何が起こっていたのか------。西欧・正教・イスラームの三つの世界が接する境域地帯に視点を定め、近代へと移行していく複雑な「世界の一体化」プロセスを、政治外交面から、多言語の一次史料に基づいてつぶさに描き出した、世界的にも稀有な労作。
中世から近代の歴史を深く掘り下げたい場合は、この本を読むとよいでしょう。


現代

現代のモルドバのみについてのまとまった本は、日本語では残念ながらありません。
ウクライナ・ベラルーシと併せて経済を解説した書籍はあります。
  • 服部 倫卓(2011)『ウクライナ・ベラルーシ・モルドバ経済図説』 ユーラシア・ブックレット, 東洋書店
amazonだと値段が跳ね上がっていますが、これは出版元の東洋書店が倒産して絶版になってしまったからです。もともとは定価1,000円もしない、薄い本ですのでご注意。著者のウェブサイト・ブログは非常に充実しているので、むしろモルドバ経済の最新情報はそちらを見たほうがいいかもしれません。


モルドバといえば、未承認国家「 沿ドニエストル共和国(トランスニストリア)」の問題があります。これはソ連末期に、ロシア人住民が多いこの地域がモルドバからの分離独立を宣言し、その後モルドバとの間で戦争となり、停戦となったものの現在まで事実上の独立状態が続いている、という問題です。
「 沿ドニエストル共和国」については、旧ソ連地域やロシアの国際関係を扱った本に記述があります。

例えば次の書籍。
  • 廣瀬 陽子(2008)『強権と不安の超大国・ロシア~旧ソ連諸国から見た「光と影」』光文社新書
アゼルバイジャンなどコーカサス地域の話がメインなのですが、沿ドニエストル問題についても書かれています(著者が当地に「入国」した話など)。
 あとは、本ではありませんが、次のニュース記事を読んでおくとよいでしょう。

モルドバ3銀行から10億ドル消失、受け手特定できず 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

モルドバの銀行から10億ドル(日本円だと1100億円以上ですか・・・)が消失したという、とんでもないニュース。

英語ですがこちらも。2015年の反政府運動の記事です。

BBC News - Moldova anger grows over banking scandal

私が2015年12月にモルドバへ行った時も、国会前にテント張って抗議運動やってましたね。近づきませんでしたが・・・。

こちらは、2016年に行われた大統領選を受けての記事。親ロシアの大統領が勝ちました。

欧州に取られた旧ソ連国をロシアに取り戻せ!-JBpress

言語

  • ニューエクスプレス ルーマニア語
前述のように、モルドバで話されているのはルーマニア語です。かつては「モルドバ語」と言われ、文字もキリル文字が使われていましたが、今は文字もルーマニア語と全く同じです。なのでルーマニア語ができればモルドバでも通じます。同じ言語ですから。


文化

  • 羽生 修二 (監修), 三宅 理一 (2009)『モルドヴァの世界遺産とその修復―ルーマニアの中世修道院美術と建築』西村書店
専門的な書籍ですが、遺産の保護や修復、教会美術に興味があれば読んでみるとよいでしょう。


 本当はモルドバ文学の本も紹介したかったのですが、日本語で読めるちょうどいいものが見つからなかったので断念。見つけ次第、掲載します。